第16話「バーチャル彼女・後編」
「それじゃ、今日はこれで帰るな」
みなみと二人きりでの夕食後、片付けを終えた夕陽は、雑談もそこそこに席を立った。
「えっ、夕陽さんもう帰るの?これから一緒に人生ゲームやらないの?」
「お前は正月に来る親戚か従兄弟かよ……。まぁ、アレだ。持ち込みの仕事みたいなヤツだよ」
当然、早速みなみが不満を口にするが、今日の夕陽にはどうしても譲れない大切な用事があった。
「えー、もう。仕方ないなぁ。じゃあ次は人生ゲームの他に「チビロク親分危機一発」もやってよね!」
「はいはい……。お前さぁ、俺の事、彼氏じゃなくてただの一年に数回顔を合わせる程度の親戚のにーちゃんだと思ってないか?」
「そんな事ないよ!だってウチの親戚にこんな見た目だけはイケメンのにーちゃんいないもん」
「見た目…ねぇ。つかやっぱり顔かよ」
夕陽は半分軽蔑したような目でみなみを見た。
慌ててみなみが言葉を重ねる。
「ううんっ、後は掃除とか洗濯とか、ご飯作ってくれるとことか、凄い便利で好き!」
「…全然フォローになってねぇ、余計傷つくわ!」
「あぁ、待って夕陽さん、他にもあるよ。好きなとこー」
夕陽はみなみの言葉を待たずに彼女の部屋を後にした。
☆☆☆
「さて、俺には「バーチャルみなみ」が待ってるんだよな〜♡」
自分の部屋に戻った夕陽は、着替えるのもそこそこにスマホを起動する。
……おはよ。ユウヒくん。
「おはよう、みなみ。もう夜だぞ」
……あはっ♡間違えちゃった。
画面の向こうのみなみが照れたようにチラリと小さな舌を見せる。
「おふっ…。こ…これはこれで中々破壊力あるな」
最近の夕陽は大半の時間をこのバーチャルみなみと過ごしていた。
リアル彼女である永瀬みなみよりも多くの時間を過ごしてきた。
もう実質こちらが彼女と言ってもいいくらいではないだろうか。
「でも、スマホと会話は…ないよな。やっぱ自重しよう」
夕陽はスマホを放り出す。
「そもそもあれだ。これ実際のみなみと全然違うもんな。絶対言わない事や、やらない事ばっか言ってるんだよな…ん?これはみなみじゃないよな」
再び夕陽はスマホ画面を覗き込む。
画面の中のみなみは、妙なユルユルした動きでこちらを見つめている。
こちらがどんな選択肢を選んでも、肯定的なバーチャルみなみ。
「うーん。改めて考えてみると、これはつまらんかもしれないなぁ」
夕陽の中のみなみは、いつも突拍子もない発言で夕陽のメンタルを破壊し、何が出てくるかわからない戦々恐々としたスリルがある。
しかしバーチャルみなみにはそれがない。
多分、大多数の人間ならこちらのみなみを選ぶと思う。
だが、今の夕陽にはそれが物足りなく感じるのだ。
「俺も相当アレに飼い慣らされてるよな…」
急に夕陽は立ち上がり、スマホを投げ出した。
そしてすぐに隣の部屋へ向かう。
「あれ、どうかしたの?夕陽さん。持ち込みの仕事は…」
「いや、いいんだ。それより人生ゲーム、やろうぜ!」
すると、みなみは顔を輝かせる。
「えっ、えっ、えっ?いいの?」
「あぁ。なんなら笹島も呼んでもいいぞ」
みなみは嬉しそうに夕陽の腕にしがみ付く。
「やったー!もう、夕陽さん最初から人生ゲームやりたかったんじゃないの?」
「まぁ…そうだな」
「ふふふ。夕陽さんの何でもガチで付き合ってくれるとこも好きだよ」
「もういいよ……。無理に探さなくても」
夕陽はやれやれとため息を吐きつつ、ゲームも準備を始めた。
こうして夕陽はその日以降アプリを削除した。
このアプリはその後、僅か半年余りでサ終となったという。
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