第12話「課金は計画的に」

「遂にやってしまった……バカなんじゃないか、俺は」



スマホを手に、夕陽は虚無感に包まれていた。

画面には煌びやかな衣装を纏った永瀬みなみの最高レアのデッキが揃っている。

気持ち悪いくらい荘厳な光景である。


これだけ揃えるのに一体いくら注ぎ込んだのか考えるだけで恐ろしい。



そして今日は唯一所持していない限定イベントユニット、URアケオメみなみが復刻する日である。


「まぁ、これでフルコン出来る。思えば長い道のりだった…」



「おっ、夕陽もハマったん?すっげーじゃん。全部みなみんのUR…」


「…見るなよ。べっ…別にハマったわけじゃないんだからね」


「うわぁ、それ誰得?」



笹島は思わず両腕を摩る。



「俺も夕陽に負けないよう、ガチャ回そ」



「おっ、お前も復刻狙い?」



「そういう夕陽も、みなみんのアケオメ狙いだな?」



「………いや、別に俺は」



「もう隠すなって」



「………」



夕陽は舌打ちすると、笹島の横でアプリを再び立ち上げる。



「おっ、更新キター!いくぜ。狙うはバレンタイン怜サマ」



笹島は何か拝むようなポーズを取り、スマホをタップした。



スマホ画面にはトロエーのステージ画面が出現し、虹色に輝き出す。



「おっ、特殊演出キター!UR確定」



笹島が拳を突き上げ歓喜する。



「何ぃ、マジか」



つい夕陽も気になって笹島のスマホを覗き込む。

だが虹演出と共に登場したのは乙女乃怜ではなく、喜多浦陽菜のお雛様スタイルのカードだった。



「あーっ、まさかの陽菜っちかぁ。しかも十二単だから露出も低っ!」



「まぁ、喜多浦さんは雑魚処理に使えるからまだ救いはあるだろ」


「いや…もう俺、ひな祭り陽菜っち完凸済みだもんよ」


「……お前、もう廃人クラスになってないか?」



実は夕陽も笹島の事を言えないくらいに課金しているのだが、敢えてそれは言わない。



「じゃあ、そろそろ俺も回すかな」



「おぅ、ガンバレ!」



笹島の力強い応援を聞きながら、夕陽も召喚画面をタップする。



「…………確定枠のSRしか来なかった。しかもこれゴミじゃん」



「コラー!怜サマをゴミ呼ばわりすんじゃねぇよ」



「いやだって、これもう初期のだし。インフレ確実…」



夕陽が引き当てたのは、SRの乙女乃怜。

写真はソファに座り、おすましポーズというもので、カード自体の性能もイマイチでユーザーの間では「ゴミ」とまで呼ばれている。



「……これ、天井までいくルート?」



「いやいや。俺はその前に完凸してみせるわ」



しかしその後、二人は揃ってガチャの沼へと沈んでいくのだった。



         ☆☆☆



夕刻。

ベランダから覗く赤い夕焼け空を見上げながら、二人は痩けた頬に疲労を滲ませ、ため息を吐いた。


「戦いは終わったな……お前、いくら突っ込んだよ?」


夕陽は笹島から目を逸らす。



「聞くな」



来月の引き落としが怖い。

そう考えると身震いすらしてくる。


そんな時だった。

玄関から解錠の電子音が響き、永瀬みなみが姿を現した。



「やっほー。夕陽さん。…って、笹島さんもいたんだ」


「おおーっ!生みなみんキター!…芋ジャージに瓶底メガネでオーラ霧散してっけど」



笹島は飛び起きて、突然の現役アイドルの出現に歓喜する。



「おぅ。仕事は?」


「今日はもう上がったよ。明日からまた離島で無人島体験番組の収録に行くけど」



「うわぁ、相変わらずエグい仕事してるね。みなみん」



「ふふふ。お仕事あるだけで幸せなんだから平気っす♡……あ、それもしかしてトロサバじゃない?」



気付くとみなみが夕陽のスマホを覗き込んできた。



「あっ、いや…これは笹島が……」



夕陽はしどろもどろになって下手な言い訳を始める。



「わぁ、あたしの全部完凸してくれてる。感激だなぁ」



みなみは夕陽のスマホを手に取り、顔を輝かせて見入っている。



「随分お金かかったでしょ?」


「いや、そんなには……」



かかっているのだが、やはり言わない。

というか言えない。

するとみなみは笑顔で衝撃時な事実を告げる。


「でもね、これ来月全部ログボで貰えるんだよ。しかもこれまでのUR全部」



「はぁぁぁ?」



二人同時に叫んでしまった。

そんな二人にみなみは追い討ちをかける。



「トロサバ、売り上げ落ちちゃって、3か月後にサ終決まったんだよね。だから来月から全ストーリー解放と限定UR配布やるんだよ」



「おいおい、そんな文言どこにもないそ」



焦った夕陽はスマホを鬼にようにスクロールしてお知らせを確認する。

笹島も同様にスマホを凝視している。

だがどこにもそんな記述はない。



「それはそうだよ。決まったばかりでまだ関係者しか知らない事だもん」




「マジかー!俺の諭吉がぁぁぁ」



「あぁぁぁっ!」




「多分来週くらいに発表あるんじゃない?」



夕陽は心に固く誓った。

課金は二度としまいと。














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