第7話「総務部の石上さん」

「なぁ、夕陽。彼女ってどうやったら出来るんだろうなぁ」


ある夏の日の午後。

自室で笹島はスマホを眺めながら、ぼんやり呟いた。


「どうやったらって、そういうのはいつの間にか出来るものじゃないのか?」


笹島の部屋へ遊びに来ていた夕陽は、気のない返事をする。


「お前それ、どうやったら結婚出来るかって時も言うヤツだろ。そんな万能なアンサーじゃないからな」


笹島は鼻息荒くスマホを床に放り投げた。



「そんな事急に言われてもなぁ。無理なものは無理だろうし」


「だよな〜。マッチングアプリでもやって見ようかな」


「やめとけ、やめとけ。ああいうのは時々ヤバいヤツが混ざってる場合があって、お前みたいなぼんやりアフロなんていい食い物にされるだけだぞ」


「ああぁ。もう自力で見つかる気しねぇよ」


笹島は力なく机に伏せた。



「なぁ、友達の紹介とかはどうなんだ?」



「夕陽、お前誰かいない?」



「……総務部の石上さんとかなら」



「知らないなぁ。その人、いくつ?」



「52。確か独身だったはずだけど」



「…………うわぁぁんっ」



「おいっ、その反応は失礼だろう」



ただ可愛い女の子と恋愛したい。

それがどんなに難しい事か。

笹島は力なく項垂れた。


「俺だってさ、何も昔からアフロじゃなかったんだよ?サラッサラのマッシュルームカットな髪を靡かせて、牛乳瓶の底のようなメガネをキラキラさせながら街を闊歩していた時期もあったんだ」


笹島はウットリしながら、過去の自分を思い出す。


「今の説明でときめく女子、いないと思うが?」


「何でだよ!」



どうやら夕陽と出会う前の笹島はマッシュルームカットに瓶底メガネというスタイルだったらしい。



「じゃあ、勉強出来るタイプだったのか?」



夕陽の記憶によると、高校の頃の笹島の学力は平均よりやや下辺りをウロウロするような感じだった。


もしかすると何らかの事情があって、大きく学力を下げるような事があったのかもしれない。


「いや。あの頃の成績はケツから数えた方が早かったな」



「何の為のガリ勉スタイルだよ!」



「いやぁ、漫画の読みすぎかなぁ」



「……お前がモテない理由がわかってきたかもな」



「やっぱりその石上さん、紹介してもらっていいか?」



「………」



夕陽は深いため息を吐いた。



       ☆☆☆




二週間後。


「おい、笹島っ。お前に紹介しようと思ってた石上さんな、結婚したって」


「何ぃっ?」


穏やかな昼下がりの社内にショッキングなニュースが飛び交った。


総務部の石上が係長と電撃入籍。


社内でも一番恋愛事から縁遠そうだった二人なだけに、このニュースは衝撃的だった。


「な…何でだよぉ」


力なく床に座り込む笹島。


「そういえば、お前に彼女紹介しようとすると、毎回紹介する前に男が出来たり、結婚したりするな」


「マジか……」


「このジンクスが広まれば、お前に紹介されたいっていう女子が沢山集まるかもな?良かったじゃないか」


夕陽は笑顔で笹島の肩を叩いた。


「そんなのちっとも俺の幸せに繋がらねぇじゃん!良くねーわ」


笹島の悲しい遠吠えが響き渡った。

果たして彼に幸せはやって来るのだろうか。




















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