第6話「本能の水着」
「ねぇ、夕陽さん。これ、私に似合うと思う?」
ここは都内にあるアウトレットモール。
明日、急に休みが取れたみなみと、彼女のリクエストでプールへ行く事になった。
お互い水着を持っていなかったので、今日は近場のアウトレットモールで水着を買う事にしたのだ。
しかし、こうして午前中から水着を選んでいるのだが、みなみの方は中々決まらない。
もうとっくに自分の水着を買った夕陽は、休憩コーナーでスマホをポチポチしながら、みなみの戻りを待っていた。
「……そんな裸同然の水着、どこで見つけたよ。ダメだ、ダメだ」
みなみが持ってきたのは、ほとんど紐にしか見えない代物で、どうやって着るのかもわからない。
夕陽はかなり厭そうな顔をして、両手でバツのサインを送る。
「普通でいいんだよ。普通で。グラビアの撮影じゃないんだし、何でそんな肌を露出したがるんだか」
するとみなみは、夕陽の足元の紙袋を見て小馬鹿にしたように鼻を鳴らす。
「わかってないなぁ。夕陽さん、そんなショボい水着じゃ夏の主役にはなれないゾ」
「悪かったな。ショボい水着で。とにかくそれは戻してこい」
みなみは不満そうにまたフロアへ戻っていく。
彼女の持ってくる水着はどれも布面積が狭く、大事なところだけ隠れていればOKな開放的なものばかりだ。
これは彼氏的には絶対NGである。
もし、このような格好でプールをウロウロしていたら、必ず何らかのトラブルになるはずだ。
「もういい、俺が選んでやるよ」
「えぇー、いいよ。夕陽さんだったら絶対スク水選びそうだもん」
「選ぶか!それにここに、んなモンねぇわ。……って、何だその変態を見るような目は」
ついに痺れを切らした夕陽が売り場にやって来た。
また懲りもせず、三角形のビキニを手にしているみなみを見て、夕陽はため息を吐く。
「まさか、そのボディビルダーのような水着…」
「え?私、似合わないかな」
自分の身体に当てて、何故かマッチョポーズを取るみなみ。
「似合う似合わない以前の問題だ。……おっ、これなんかいいんじゃないか?」
夕陽が選んだのは、タンキニと呼ばれるタイプの水着で、キャミソールとショートパンツがセットになったものだ。
露出も少なく、お腹周りも隠れるので体型を気にする女性に人気のタイプだ。
「ぶーっ、何でそう色気も可愛げもないやつ選ぶかな。夕陽さん、夏なんだからもっと本能に正直になりなよ」
「十分可愛いだろうが。俺は年中本能に正直に生きるお前が心底恐ろしいよ。とにかくコレにするぞ」
「えー、本気でそれ買うの?えーえーえー、つまんない」
不満たらたらのみなみを無視して、夕陽はレジへ向かう。
こうして無事水着をゲットした二人だったのだが、翌日は激しい豪雨と落雷でプール行きが中止になる事を、二人はまだ知らなかった。
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