第4話「俺の彼女は料理がエモい」

「さて、今日は珍しく俺の体力と気力が充実しているので、餃子を作りたいと思います」


「わ〜、頑張って。夕陽さん」


「彼氏さん頑張れ〜♡」


呑気な2人の拍手が鳴り響く。

今日は夕陽宅に、トロピカルエースの永瀬みなみと後島エナが遊びに来ていた。


ここにエナが来るのはクリスマスイブのサプライズパーティー以来の事だ。



「いや、完全に実食オンリーの審査員気取りだが、お前らも作るんだぞ?」



キッチンの前で夕陽はお気に入りのエプロンを装着し、冷蔵庫から材料を取り出す。


「えー、ウチらが作るより夕陽さんが作った方が食材だって喜ぶよぅ」



「そだよ〜。私たちの特技って、どんな食材でも立派な生ゴミに出来る事だもんね。ねー、みーちゃん」


「そーそー…って、それエナだけだから。私は生ゴミなんてならないから」


みなみは慌てて取り繕うのだが、夕陽に言わせると微妙なところだ。


「まぁ、具材は昼間に作ってあるから、お前らはこの皮に包むだけだ。簡単だろ?」


2人の前のテーブルにはラップに包まれた具材が三つと大皿に餃子の皮が乗っている。


「いいか?2人ともよく見ろよ。まずは俺が手本を見せるから」


「はーい♡」


「ハイっ。彼氏さん」


夕陽はラップを取り、餃子の皮に具材を適量入れると、器用に片手で閉じていく。


「…て、まぁこんな感じで、閉じた隙間から肉が飛び出してこなければ大体上手くいく」


「あ〜これは簡単だね。私にも出来そう」


そう言って2人も夕陽に習って同様の手順でせっせと餃子に具材を詰めていく。


「みーちゃん、そこ伸ばせばもっと入るよ?」


「うん。デッドスペースを無くす事がポイントだよね」



「……こらこら、スーパーの詰め放題じゃねーんだぞ!」


見るとエナは野球ボールくらいの餃子らしき物体と格闘していた。


「餃子の皮は一個につき一枚が常識だろ。誰がこんなオッチャンがパチンコ行く時に持ってくような巾着袋サイズにしろと言ったよ」


大体こんなサイズの餃子、家庭のフライパンでしっかり中まで火が入るわけがない。



「えー。何でよ。これは日頃お世話になってる夕陽さんへの感謝の餃子なんだよ」


「……材料費も調理も俺がスポンサーだけどな。とにかく、これは却下だ」


そう言って夕陽はエナとみなみから球体状の餃子を取り上げると、さっさと解体して普通サイズの餃子にリメイクしていく。


「冒険心がないなー。夕陽さんは」


「そういうの、保守的って言うよね」



「餃子作りでそこまで言われたくねぇな」


夕陽はフライパンに油を引くと、餃子を並べ始めた。


「こら、見てないでお前らもやれよ」


「夕陽さん。めっちゃ亭主関白〜。エナ。並べようか」


「オッケーだよ。みーちゃん」


3人で並べた餃子は半分が買ってきたように完璧で、半分は歪な形をしていた。


さて、数分後。

何とか手作り餃子は完成した。


「さぁ、出来たぞ。見ろこの完璧な焼き色。それに香ばしいにお……ん?何か変な臭いがするな」


キッチンからリビングへ移動し、出来た餃子を皿に移しす。

外側はカリカリに焼け、内側はジューシーな肉汁が溢れ出す具材が覗いている。

その出来栄えに満足した夕陽だったが、何か鼻腔に異臭らしきものが届く。


「あ、わかりますか?」


エナが何故か嬉しそうに笑う。


「わかるって、まさか……」


嫌な予感に夕陽の顔色が変わる。


「エヘヘ。そのままじゃつまらないから、中にコッソリ色々詰めてみました♡」


「ロシアン餃子の始まり〜!」


「始めるな!」


中身はバナナやチーズケーキ、生八つ橋、トリュフチョコ等が通常の具材と一緒に入っていた。


最悪なマリアージュである。


その後、それらの生ゴミ…ではなくロシアン餃子は責任を持って全て夕陽が完食しました。



「冗談じゃねーぞ。ぐふっ……」



こうしてまた夕陽の体力と気力は再びゼロになった。
































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