第3話

「ちょ…あの、離してくれませんか?」


スーパーあしながおじさんでは地味に熱いバトルが繰り広げられていた。


目玉商品である卵が残り一パックとなり、そのラス1を手にする為、現役アイドルは必死な抵抗を見せていた。


「冗談じゃないよ。こっちが先だったんだからね。そっちが離しなさい」


反対側から卵に手を伸ばしてきたのは、中年の女性だ。

クリクリ頭に派手なアニマルプリントのシャツにネオンカラーのスパッツが目に付く。

格好なら、みなみとそう変わらないセンスである。


その女性は相手が若い女の子だとわかると、牙を剥いてきた。



………こっ…怖いよぉぉ。夕陽さん。



これまで高所での食材採取や、スズメバチの駆除等様々な仕事に挑んできたみなみだが、このリアルガチなバトルは初めてだ。


「い……いやですっ!」


みなみは卵を渡すまいと、必死に相手を威嚇する。


「もし無事に卵をゲット出来たら、夕陽さん褒めてくれるかな…。嬉しくて私の写真集10冊くらい買ってくれたりして♡これは負けられないぞ〜」


負けられない戦いが始まった。



        ☆☆☆


「さて、キャベツと牛乳もゲットしたし、…みなみはどうなったかな」


一方、別の売り場でそれなりの成果を得た夕陽は、先に卵売り場へ行かせたみなみを迎えるべくスマホを手にした。


「…もしもし?みなみか。そっちの首尾はどうなった」


しばらくして、みなみが応じた。

何だか息がきれているようだ。


「もっ…ハァハァ…もし…もし?夕陽さん?」


「あ…あぁ、大丈夫なのか?」


「大丈夫!写真集15冊だからねっ、絶対頑張るから信じて待ってて!」


「はぁ?写真集?何だそれ。俺は卵を…」


みなみはスマホを首に挟み、卵パックを離さずに睨み合っている。


「とにかく大丈夫だから。私、この戦いに勝ったら絶対今より成長出来ると思うの」


「お…おぉぃ、そんな大袈裟な。俺はお前の頭の方が心配だよ」


「じゃあ集中出来ないから切るねっ!」


まだ夕陽が話していたが、みなみは通話を強引に切った。


「ふんっ、こんな時にオトコに電話かい?余裕だね?小娘」


それを見て、中年女性が小馬鹿にしたように笑った。


「こむっ……うぐっ。じゃあ、サクッとじゃんけんで決めませんか?」


見ず知らずの客から小娘呼ばわりされ、やや自尊心が傷ついたが、今は卵が大事だ。

すると中年女性は自信満々に頷いた。


「いいだろう。小娘。その代わり、恨みっこなしだよ?」


「当然!絶対負けませんから」



        ☆☆☆



正午。


「ふぅ…。大漁だったなぁ」


両手に大荷物を抱え、夕陽はホクホク顔だ。

その横をボサボサの髪に引っ掻き傷を作った歴戦の戦士が共に歩く。


「本当にお前、大丈夫なのか?顔にそんな傷作って」


夕陽は荷物を置いて、その頬に触れる。


「大丈夫だよ。こんなのコンシーラーで隠せるから。それより夕陽さん、褒めて、讃えてよ!」


「あ…あぁ。そうだよな。みなみ、ありがとう。それからお疲れさん」


そう言って夕陽はエコバッグから戦果である卵のパックを取り出して掲げた。


「うん♡じゃあ、私の写真集20冊は買ってよね」


「はぁ?何で20冊だよ。それにあの写真集は露出が高すぎる。自主回収した方がいいぞ」


「何でよ!大体私の水着の写真、パソコンのフォルダに鍵つけて保存してたじゃん」


「わっ、バカ。何で知ってるんだよ」


夕陽は顔を赤くて慌てる。


「ワタシは何でもお見通しなのだ」  


「ちくしょう。悪夢だ…」



        ☆☆☆



その後、テレビ番組でみなみが芸能人運動会の借り物競争で見事に一位を獲得した。


人混みの中から目的の物を確実にゲットし、戻って来るという競技にあのスーパーでの経験が役立ったのだろう。



「ただでは済まさない貪欲なアイドルだな」



テレビで満面の笑みを浮かべるみなみを見て、夕陽は無理矢理買わされた一冊の写真集を手にした。



「こんなケツ半分出てる水着、ダメだろう…」





終わり。




次回はまた小ネタが見つかったら更新します(^ ^)


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