第2話

スーパー「あしながおじさん」はまだ開店前だというに長蛇の列が出来ていた。


「マジか〜。出遅れた」


「夕陽さん、あっちのスーパーでも卵、売ってたよ?」


「バカか、お前は、あっちは2円高いんだよ。2円っ!」


「2円くらい私が出すよ?何ならまとめ買いしてもいいし」


長蛇の列を見て恐れをなしたのか、みなみは妥協点を挙げるも夕陽に一蹴される。


「却下に決まってるだろう。お前の金銭感覚おかしいんだよ。大体、初対面の時に万札俺に叩きつけてきたよな?」


「ちょっ…何でそこでそんな古い話、持ち出すかな。それに叩きつけてないし」


「そんなに古い話じゃない。とにかく却下だ。2円を大切にしない奴は俺の家の子じゃねぇ」


夕陽はみなみの腕を掴み、列の最後尾につかせた。


「夕陽さん、人が変わってるよ〜」


そうこうしているうちにスーパーの開店時間になった。

巨大メガホンに派手な法被を纏った怪しげな風体の店長が入口に姿を現す。

その瞬間、何故か歓声が上がり拍手に包まれた。


「ちょっと、夕陽さん。あのオジサン、新人アイドルとか何かなの?」


横から焦ったような様子で、みなみが耳打ちしてくる。


「ここの店長だよ。あの店長の匙加減で今日の特売の内容がガラッと変わる。そんくらい影響力のある御仁だ」


「こんなところにライバルが…」


知らないところで敵を作っているとは知らず、店長は高らかに開店を宣言する。


「さぁ、これよりスーパーあしながおじさん、開店です!」


その声と同時に老若男女が店内に駆け込む。

夕陽も気合十分で挑む。


「いいか、みなみ。絶対に俺から離れるなよ?」


「う…うん。夕陽さん、顔怖いな。それにそのセリフ、こんな場面で聞きたくなかったなぁ」


店内は人で埋め尽くされ、親とはぐれて泣き叫ぶ子供の声や、怒鳴る声や叫び声が飛び交い、阿鼻叫喚の世界が広がっていた。


「ねぇ、夕陽さん。ここ本当にスーパーだよね?」


「バカ言うな。ここは弱肉強食の戦場だ。ちっ、もうカートがないのか。まぁ、バトルがスタートしたらあんなもの邪魔なだけか」


店内入口にある荷物を運ぶ為のショッピングカートはもう全て、出払っているらしく夕陽は軽く舌打ちする。


「みなみ、お前は先に卵を確保してくれ。俺は他のお買い得商品を回収してから合流する」


「えーっ、さっきイケ顔で俺から離れるなって言ったのに!」


「そんな甘い考えじゃ、ここでは生き残れないぞ」


何故か夕陽は凄い剣幕で叫ぶ。

もう何が何だかわからない。


「…わかったよ。行ってきます」


みなみは仕方なく夕陽から離れると、人の壁の隙間に身を滑り込ませる。


「健闘を祈る。卵売り場はわかるな?」


「大丈夫。ここに来る前に何回も説明されたから。もう。一体ここはどこなんだか」


卵売り場はかなり奥の方にある。

距離的にはそれ程遠くはないのだが、人が多い為、なかなか辿りつかない。


「もう…ようやく着いた…」


スーパーの目玉商品である卵売り場は一番激しい戦場だった。

次々と棚から卵が消えていく。

早くしないと完売してしまうだろう。


「ラス1っ!貰ったっ」


何とあっという間に卵は残り一パックになっていた。

みなみは何とか手を伸ばす。

すると横から引っ張る者がいた。


「えっ?」


みなみの顔から余裕が消えた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る