【短編】爆乳女にフラレたら次の日、ロリ女が隣で寝てた

夏目くちびる

第1話

 俺は巨乳好きだ。というか、爆乳が好きだ。顔とか尻とか太ももとか、それらのバランス重視が好みだなんて、そんなインポみたいな思考ではなく、ただ、爆乳が好きなのだ。



 自分で言うのもなんだが、デカさへのこだわりは半端ではない。まず、Gカップ以下はあり得ない。何ならHだってあり得ない。だって、エロビデオを見るときは必ずJ以上だし。それ以下のおっぱいで抜いたことなんて、生まれてこの方一度もない。それくらい、俺は爆乳が好きだ。



 美乳だの、ロケットだの、豊胸で得た偽りのおっぱいだの。そんなことは些末だ。



 サイズだ、サイズなんだよ、キミ。必要なのはね、何よりもサイズ。乳輪がデカかろうが、乳首が黒かろうが、鳥肌でポツポツしてようが。そんなことは、どーーーーーでもいいワケだよ。俺は、本気でデッカイおっぱいが好きなんだよ。



 だから、俺は爆乳を手に入れる為に、ガキの頃からあらゆる努力を惜しまなかった。最強の大学に通って、誰もが憧れる大企業に就職して、肉体だって、磨きに磨きあげてきた。おまけにプチ整形までして、完全無欠のスーパーパーフェクト超人の俺を完成させた。

 その努力に時間をかけ過ぎてこれまで彼女は出来た事がないが、それは未来への布石だ。終わりよければ全てよし。最後に爆乳を手に入れることができれば、他の事などどうでもよかろうなのだ!



 ……そう思ってたハズだったのに。とうして。



「ねぇ、リモコン取ってよ。あと肩揉んで」



 こんな、本当に成人してるのかも分からんロリっ子が。



「そうだ。私ね、アイス食べたい。いちごのヤツ。買ってきてよ」



 俺の家にいるのだ。



「聞こえてる?返事しないと怒るよ」

「怒るな。というか、どうしてお前がここにいるんだ」

「どうしてって、泊まったからに決まってんじゃん。なに意味分かんないこと言ってるワケ?」

「だから、どうして泊まってるんだっていってんだよ!」

「いいじゃん。あんた、私のコト無理やり犯したくせに」

「してなァアアアアアアアアいッ!断じて!俺はお前のようなちんちくりんの両面背中みたいな体の女を!無理やり犯すようなマネはしていない!!」

「うっさいなぁ、してたっつの」

「……マジかよぉ」



 どうやら、そういうことらしい。……多分。いや、したっていうか、過ちっていうか。全然覚えてないけど。事実無根でそんな事はなかったのかもしれないけど。でも、朝に起きたら俺の隣でこいつが寝ていたのは確かだ。



 待ってくれ。お願いだから、言い訳をさせてくれ。ホント、ずっと自己研鑽してたから酒の飲み方とか知らなくてさ。高校の時も将来爆乳を手に入れるために、ずっと勉強と筋トレしてたし。コミュ力あげようと思って始めたアルバイト先も男ばっかで、しかもみんな真面目だったし。だからマジで大人の遊びってしたことなかったんだよ。



 そんな理由で、女友達なんて一人もいなくてさ。というか、気軽に飲みにいく友達すらいなくてさ。だから、ある日キャッチに捕まったキャバクラで見つけた爆乳のギャルに貢いで、とりあえず口説きまくったんだ。でも結局は時間と金だけ使った挙げ句フラレて。恋愛にすらなってないのに泣くくらい虚しくて傷付いて、それで近所の中華屋で飲んだくれてた時に、こいつが話しかけてきたんだ。



「あんたさ〜、何一人でメソメソしてんのよ。ラーメン不味くなるから、泣くの止めてくんない?」

「うるせぇ、チクショウ。オヤジ、ビールをもういっぱいくれ」

「何杯目よ」

「わかんねぇ。もう、頭がグラグラだぁ……」



 結論、この時に二杯目だったワケだけど、まぁ今までビールなんて飲んだ事なかったし、仕方ないよな。



「おじさん、私にもビール」

「未成年が酒飲んでんじゃねぇ!」

「シッツレイな。私は20歳だっつの。ハ・タ・チ!」



 言いながら、自分の席からドンブリを持ってきたこいつは、そこに俺のチャーシューとメンマを乗せて、ズルズルとラーメンを啜った。



「俺からチャーシューまで取ってくのかよ〜。どうして、そんな酷いことするんだよ〜」

「迷惑料よ。私、茅野かやのね。よろしく」

「悪いが、爆乳以外眼中にねぇぞ。ちなみに、俺は桐谷きりたにだ。ぐす……」

「……サイッテー。人がせっかく心配してあげてんのに。モラルの欠片もないんだから」



 箸でピッとスープを飛ばされて、顔がやたらと熱かった気がする。この辺から、記憶がかなり曖昧だ。



「なんで心配すんだよ。つーか、センチになってる男に話し掛けんなよ」

「ラーメン不味くなるからって言ってるでしょ?つーか、ラーメンもこのビールもあんたの奢りだから」

「なんでだ?……まぁ、ビールくらいいくらでも飲めばいい。俺は、金だけはあんだから」



 いや、別にない。正確に言えば同年代よりはあるが、世の人間と比べれば全然微々たる額だ。



「そんなこと言ってるからフラレんのよ。そういうの、こっちは浅いって思いながら聞いてるんだからね」

「嘘こけ、絶対にそんなことないぞ。というか、なんで俺がフラレたの知ってんだよ」

「……駅前のスタージュエル、嬢内ナンバーワンのカナエちゃん。バストは105センチ。ぽっちゃり体型で、お腹にコルセットをかなりキツく巻いてる。26歳って言ってるけど、実はあの子32歳でバツイチだよ」

「……はぇ?」

「ぷっはは!!何その顔、ウケるんだけど!」



 言って、彼女は笑いながら目尻を擦った。そして、残っているのに俺の皿からチャーシューを盗み食いして、少しのビールでそれを流し込む。



「あ~ぁ。あんた、ホントにおっぱいにしか興味ないのね。わかんない?スタージュエルのサキだよ。何回か、ヘルプ入ったことあるじゃん」

「……覚えてねぇ」

「マジでゴミじゃん。フツーにシラける」



 確かそれから、少しだけ黙った時間が続いた。その間、俺はずっとメソメソ泣いていた気がする。テレビで流れていたバラエティー番組に知ってるグラビアアイドルが出てて、ずっとおっぱいを眺めてた事も。



 そんな時だった。突然、茅野はこんなことを言い始めたんだ。



「あんたさぁ、なんでそんなにおっぱいが好きなワケ?」

「わかんねぇ。物心ついた頃には、既に好きだった。多分、初恋の相手が幼稚園の先生だったんだけど、その人がすげぇ爆乳だったからだと思う」

「うわ、エロガキきも」

「別にいいだろ。もう放っといてくれよ」

「ねぇねぇ。その人のこと、まだ好きなの?」

「多分な。時々、夢に出てくる」

「うわっはは!すっごいピュアじゃん!マジで意味わかんない!」



 ぶっちゃけ、なんで笑われたのかが分からなかった。だから、思わずこう言い返したんだ。



「いいじゃねえか、一途だって」

「……へ?」

「一人のことをずっと思い続けるのって、そんなに変なことか?俺は、好きなヤツのためだったらきっとなんだって出来るし、だからこうして自分を高めてきた。どれもこれも、将来爆乳の彼女が出来た時に、その人を幸せにしてやるためだ」

「いや、そんなマジになられても。動機が爆乳でめっちゃキモいし」

「正直、もうあの人の顔も声もあんまり覚えてねえよ。ただ、すっげぇ優しかったんだ」

「当たり前じゃん。幼稚園の先生なんだから」

「それでも、忘れられねぇくらい嬉しかったんだよ。それで、その人が爆乳だったのは覚えてる。だから、俺は爆乳が好きなんだ」

「へぇ。じゃあ、もし貧乳に優しくされたら貧乳が好きになるってこと?」

「知らねぇよ。されたこともないし、されるような予定もないし。つーか、おっぱい揉みたい」

「キモちわる……」



 別に、本心からそう思って言ったワケじゃない。誰かに慰めて欲しいって言葉が、恥ずかしくてそんな表現になっただけだ。



「でも、お前だって男の好きな部分くらいあるだろ。身長とか、筋肉とか」

「あるけど、別にフツーでいいし」

「そのフツーのハードルがやたら高いんだろ。知ってんだから」

「彼女出来たことない男って、どうしてそんなに女の好みを決めつけるかな。というか、仮にマッチョでイケメンで、金持ちで高身長のかっこいい、優しい王子様みたいな人が好きだっていいじゃん。何も悪くなくない?」

「いや、そこまで言ってねえよ」



 つーか、そんな男いるわけねえだろ。マッチョでイケメンで、金持ちで高身長の男なんて……。



「えっ?それ、俺じゃん」

「うわキモ」

「またキモいって言った、ひどい」

「だってキモいもん」

「だがな、茅野。俺のようなパーフェクト超人は、青春の全てを捧げないと生まれないUMAみたいな存在なんだ。妥協して、もう少しランクを落としておけ」

「だから、ランク落としてんじゃん」

「……なに?」



 言って、彼女はビールを飲んだ。



「だから、私はあんたのことナンパしてんの。わかる?傷付いたところにつけ込んで、ゲットしようと思ってるワケ。優しくなくてキモくても、他がいいから妥協したってカンジ」

「ん〜?」



 ん〜?



「ん〜?」

「ん〜?じゃないわよ。面倒だし、私のモノになりなさいよ」

「キミ、爆乳じゃないよね?」

「だからなによ」

「俺の話聞いてた?」

「聞いてたわよ。だから、そこは妥協しなさい」

「するか!!つーか、俺が爆乳を妥協したとしてもそこは巨乳だろうが!!」

「違うわよ。おっぱいのサイズを気にするなって言ってんの。それなら、妥協点いっこでしょ?」

「バカなの?それ妥協したら、俺は相手に性別が女である事くらいしか求められなくなるじゃねえか!」

「じゃあ、そこ妥協すれば?」

「そこ妥協したらボディビルダーが彼女になっちまうだろうが!つーか、その場合確実に俺が彼女になるわ!」

「ダイバーシティの可能性は無限大よ」

「頼む、性別だけは妥協させないでくれ……」

「ほら、なら私のモノになってよ。自分で言うのもなんだけど、私結構かわいいし」

「……あれ、なんか騙されてないか?」



 しかし、酔っているせいで何がおかしいのかが分からない。この女、ひょっして天才か?



「うぅ……。なんか、マジで訳わかんなくなってきた。俺、帰るわ」

「じゃあ、私も。一緒に帰ろ?」



 あ、やべぇ。ちょっとかわいい。



「じゃなくて、とりあえずここの代金は俺が出すから。もう惑わさないでくれよ」

「嫌だよ。なんか、楽しくなってきちゃったし」

「えぇ……」

「誰も言わないけどさ、モテない男たぶらかすのってすっごい楽しいんだよね。びっくりするくらい思い通りの反応してくれるし。きゃはは!」

「性格悪すぎだろ」

「逆に聞くけど、性格がいいってなによ」

「そりゃお前、優しくし話聞いてくれて、いつも笑ってて、頑張り屋さんで、人が不幸になるようなことしなくて……」

「それ、都合がいいっていうのよ。これだから童貞は……」

「うるさいなぁ。だから、俺はそういうのどうでもいいから爆乳がいいって言ってんだろ」

「……なるほど、それはそうね」

「急に素になるなよ」



 言いながら会計を済ませて、フラフラとよろめきながら家までの道を歩く。しかし、途中で疲れてしまったから、確か公園に立ち寄ったんだ。



「はい、水」

「あぁ、ありがと」

「気にしなくていいよ。これ、あんたの金で買ったし」



 そういえば、財布をレジの横に置きっぱなしにしていた気がする。



「ありがとうだけど、人の財布勝手に開けんなよ」

「ごめんね?」



 小首を傾げると、茅野はうなだれる俺の隣りに座って缶酎ハイを開けた。



「こっちはヘパリーゼ、結構効くから飲んだほうがいいよ」

「あぁ。……うわ、甘いなぁ」

「パイナップルみたいな味するよね」

「確かに」



 上を向いてとぼけていると、彼女は冷えた缶を俺の頬に当てた。考えてみると、あれは熱を冷ましてくれていたのかもしれない。

 でも、もうこの辺で限界がきて、記憶が途切れて……。



「いや、ちょっと待て」



 回想を終えて、ここにいる茅野に話しかけた。



「なによぉ」

「俺、どうやって帰ってきたんだ?」

「私がおんぶしてあげたんだよ」

「嘘つけ。お前が俺を背負ったらペシャンコだ」

「ホントは、手繋いで帰ってきた。なんか、泣きながらフラフラしてたから、引っ張ってきてあげたの」

「……ありがとう」



 しかし。



「その状況で、俺がセックス出来んのか?だって、そもそもやり方知らないんだぞ」

「わかんない」

「お前、さては何か隠してやがるな?」

「隠してない。私は襲われたの!」



 クソ。たが、考えれば考えるほど無理な気がする。というか、手を握ったのだって初めてなのに、それすら覚えてないし。話を聞いただけでもなんかちょっとドキドキすんのに、俺がそんなエロいことできるか?



「いや、無理だ。絶対にやってない」

「ひどいよぉ……」

「むぐ……。じゃあ、せめてもう一回やらせてくれよ。この際、爆乳を捕まえたときに困らないように、お前に色々と教えてもらいたい」

「それはダメっ!」

「えぇ……。なんでだよ、話聞く限りモテまくってんだから、ちょっとくらい手伝ってくれよ」



 まぁ、自分でも最低最悪なこと言ってる自覚はあるけど、元を辿れば俺は逆ナンされてるわけだし。口ぶりからして、こいつにはそういう関係の男だっているだろうし。



「いいじゃねえか。つーか、無理なら童貞返せよ」

「意味分かんないこと言わないでよ」

「……じゃあ、せめて夜のことを詳しく教えてくれよ。多分、かなりリードしてくれたんだろ?」



 すると、茅野はプイっとそっぽを向いて、スマホをイジりだした。



「ま、まぁ?最初はキスからしてあげたかな」

「へぇ」

「で、次は……。そう、おっぱい揉ませてあげた」

「いや、お前ないじゃん」

「うっさい!あるから!ちゃんとありますから!」

「まぁいいや。それで?」

「それで……、ちょっと待って」



 言って、スマホの画面をスクロールしてから、なぜか顔を赤くすると。



「そ、その。ちん……を……」

「は?」

「だから!そよ!」

「そよ?」

「ぅ……」



 ……いや、これさぁ。



「なぁ」

「黙ってて」

「なぁ、茅野」

「うっさいなぁ!なによ!」

「俺たち、セックスしてなくないか?」



 謎の間が、ここにはあった。



「したもん」

「だってさぁ。ていうか、そもそもお前、そんなに経験豊富なの?」

「ば、バカ言わないでよ!あんたみたいな童貞と違うんだから!」

「でも、さっきから調べて話してない?気のせい?」

「何回も聞かれてるから、退屈すぎてイジってるだけです」

「じゃあ、画面見せてよ」

「バカじゃないの!?人にスマホ見せるなんて……」

「見せてよ」

「うぅ……」

「見せ」

「う、うわああああ!!もう!!そうよ!いつまでたっても幼児体系で、キャバ嬢なのに大抵妹扱いされるか娘扱いされて体には見向きもされなくて!友達の体験したこと話して知ってる女アピールしてる、いつか王子様が迎えに来ると思ってる理想高すぎな残念で無知でまっさらな処女よ!殺せえええええ!!」



 こ、怖い。



「ご、ごめんな?とりあえず落ち着けって」

「もおおおおお!!なんでこんな残念童貞に見透かされなきゃならないのよおおおお!!」

「いや、見栄張ってイキがるからそういうことになるんじゃ……」

「殺してよおおおおおおお!!恥ずかしいよおおおおお!!」

「か、茅野さん……」

「ムキィィィィィぃ!!」



 騒ぎながら、茅野は床の上をゴロゴロ転がって、まるでサルみたいにジタバタと暴れた。



「あの、一ついいかな?」

「なんですか!!」

「マニア受けを狙ったら、すごくモテるんじゃない?」

「絶対イヤ!イケメンでマッチョでお金持ちじゃなきゃイヤ!イヤイヤイヤイヤ!!」



 どうやら、茅野は小悪魔ではなく小童こわっぱであったらしい。



 まぁ、言わんとしてる事は分かる。それに、そういう趣味の高スペック男も探せばいるかもしれないが、正統派の裏側がマニアって、なんか海外ドラマに出てくるシリアルキラーみたいなイメージしか浮かばないな。



「まぁ、きっと見つかるよ。頑張れ」

「見つかったからあんたの事ナンパしたんでしょうが!!」



 そんなキレ方あるか?



「でも、俺は爆乳が……」

「爆乳爆乳うるせぇ!つーか私を襲え!襲ってよ!ねぇ!襲ってってば!!」

「ちょ、朝から何言って……。うっぷ、揺らさないで。二日酔いが……」



 吐き気を我慢するので抵抗出来ず、俺は茅野がしがみ付いてくるのを拒めなかった。



「襲ってよぉ……。ぐす……」

「えぇ、泣くなよ。ちょっと、そう言うのダメなんだってば」



 なんか、俺まで泣けてきた。もらい泣きに加えて、なんでフラれた上にこんなワケわからん理由で女にキレられなければいけないのか。考えるほど涙か止まらねえ。



「昔、高速道路の壁の向こう側にあるお城に、凄く憧れたの。……ぐす。見るたびにずっと行ってみたかったの。でも、全然行ってくれる人いないし。というか、あれが何なのか知ったの、半年くらい前だし……。ぐす」



 なんか、いきなり自分語りが始まった。



「高校も女子高で、だから漫画とお父さんでしか男って知らなかったし……。ぐす」



 あぁ、それはよく分かるなぁ。俺も男子校だったし、妄想が膨らむんだよなぁ。共学に行ってれば少しは変わったのかなって、時々思う事はあるわ。



「キャバクラだって、ドレス着れるから始めたんだもん。お姫様になりたかったんだもん!」

「なんでそこでキレるんだよ。というか、自分が何を言ってるのか分かってるのか?」

「あばばばばばばばばば」



 あばばはこっちだっての。



「とにかく、襲うとか無理だって。モザイクかかってないし、触られるだけで変な気分になってくんのに。普通にビビるわ」

「昨日から思ってたけど、そういう自分の弱いところを認めるのホントズルい」

「他の部分に自信があるからな。それに、お前は知らないかもしれないが、そうしてやれない理由がもう一つあるんだ」

「な、なによぉ」



 訊かれ、俺はこっそりと耳元で囁いた。



「子供が出来るかもしれん」

「し、し、知ってるわよアホ!」

「嘘を吐くな!知ってたらそんな簡単に襲えだなんて言えるはずがない!」

「いきなり正論ブッこいてんじゃないわよ!この爆乳ジャンキー!」

「触れた事もないのに中毒になるか!」



 ……この言い合いは、不毛だが、正直ちょっと楽しかった。



 ひょっとして、これが世にいうところの、気を置ける存在というヤツなのだろうか。

 まったく、これは一体なんの冗談だ。茅野の事は少しだって好みじゃないのに、見た目も性格もキッズで、謎の既成事実まででっち上げられて危うく犯罪者にされるところだったってのに。



 これまで話してきた人間の誰よりも、幸せになって欲しいと思ってしまっている。多分、俺よりもずっと、残念な女に見えるからだろうな。



「なぁ、茅野」

「なによ」

「俺、やっぱり襲うとかは出来ない。そういう不誠実なのって、一途から一番遠い場所にあるし。なにより、お前に失礼だ」

「……わかってるわよ。もう帰る」

「でもさ」



 いつの間にか、しがみつく体を支えていた。



「俺、そういう変な関係で刹那的な満足をあげるんじゃなくて、心の底から茅野が幸せになって欲しいと思ってる。だから、もうちょっとだけ、お前のこと教えてくれないか?」

「……きゅん」



 なにそれ。もしかして、恋に落ちる音?



「だ、だったら、私のことお姫様扱いしてよ」

「え?そういう感じじゃないよね?なんか、協力関係に持っていく雰囲気だったよね?」

「言っとくけど、わがまま言いまくるから。あんたが幸せにしたいって言ったんだからね」



 全然聞いてない。聞いてないけど、俺はこれ以上否定する気にはならなかった。



「……わかったよ」



 いつの間にか、本当の子供をあやしているみたいだ。ひょっとして、俺ってば尽くすタイプだったのか。子供で、子供じみている茅野は、やっぱり全然好みじゃないけど。



「それで、それで……」



 この照れたような仕草だけは、妙にグッとクるモノがある。



「いつか、あのお城に連れてってよね」

「茅野が爆乳になったら、いつでも」

「……無理だぁ」



 この瞬間、俺は自分に新たな性癖が生まれたことに気がついた。多分、爆乳よりももっと興奮する、茅野よりももっと子供じみた、けれど正体のボヤケた、そんな複雑なフェチズムだ。



 爆乳よりも、それを満たす女を探す方が難しい気はするけど。でも、どうしてだろう。俺は、既にそれに触れているような気がしているんだ。

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【短編】爆乳女にフラレたら次の日、ロリ女が隣で寝てた 夏目くちびる @kuchiviru

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