ルイーズ


「うぉーい。もう飲めないよ」



「何いってんだ。もう一軒行くぞ!!」



俺はダンケルクの街に着いた。


昼間なのに酔っぱらいが大勢いる。なんだこの街は。俺は変な奴に絡まれないように注意して町中を歩く。


「すいませーん! この人の家族はいませんかーー!」女が大声を張り上げていた。俺はふとそちらを見る。見ると若い女がヨレヨレのジジイと一緒に歩いていた。女はジジイに自分の肩を貸して支えながら歩いている。


「この方どうも自分の家が分からないみたいで……誰か家を知ってる人はいませんか」女が大声で叫ぶ。周りの人間は遠巻きにそれを見ていた。「なんだあれ……」俺は思わずつぶやく。


なんだか酔っぱらったようなジジイがニヤニヤしながら若い女と歩いていた。いや? 歩いているというより、しがみついている? ジジイは女の肩のあたりを右手でしっかりと持ち、左手は女の腹を掴んでいた。ちょっとくっつきすぎじゃないだろうか……俺は訝しげにそれを見る。


するとジジイが震える手で誰かを指さした。その指さした先には一人の壮年の男性がおーーい! っと手を振っていた。


「よかったぁ。見つかったね」女がそう言うとそのジジイはうなずいて、男に手を振り返す。そしてゆっくりとそのジジイは女から離れていき男のところに行こうとする。するとその瞬間! 


「キャッ!」なんとそのジジイが女の胸を手でわしづかみにした。そしてそのままねじり込むように揉む。「やめっ!」女はジジイの手を振り払う。そのままジジイは何事もなかったかのように家族と思われる男のところに向かっていった。


女は自分の胸を押さえなんだかショックを受けたように呆然としている。

「おい、じいさん上手いことやったなぁ」

「長生きするぜ」


街のオヤジ達がジジイに声をかける。するとセクハラジジイは右手を上げて嬉しそうにしている。

「あのじいさん。ホント上手いよな。ボケたフリして女の体に触るの」別の男が話しているのが聞こえた。


「えげつない揉み方だったな。胸の形変わってたぜ」ニヤニヤ笑いながら別の男が言う。女はなんだか泣きそうになって立ち尽くしている。善意をあんな形で返されたらそりゃショックだろうに。


なんだか嫌なものを見てしまったな。俺は複雑な思いを抱えながら冒険者ギルドに向かった。




俺は冒険者ギルドに向かった。ダンケルクの街は城下町だった。ここには魔術師ギルドや戦士ギルドなどもあり、冒険者たちの活動の場として名前が知られている。


俺はギルドに着く。中に入った。中は混雑していた。この建物は一階は受付とクエスト依頼の掲示板。そして二階が上級者クエスト依頼の掲示板、三階が更に上級者のクエスト依頼を張り出してる掲示板と、それぞれ分かれていた。


それぞれの階に軽食が食べられるバーがあり、そこでよく意気投合した冒険者同士が集まりクエストをこなしていた。俺は受付に向かった。



「あのーすいません。クラン『天空の大鷲』に所属していたクロード・シャリエと申しますが、未払いの給与をもらえますか……」


「はい『天空の大鷲』の方ですね。お待ち下さい。今調べてます……」と言って受付の女は引き出しから紙を取り出した。そしてその紙をペラペラとめくる。


「えっと……このクランでは報酬に関しては現地配布になってますね……」と口ごもりながら受付は言った。


「えっ? 現地? なんですって?」俺は聞いた。


「ですからクエスト達成後に現地でクランのリーダーの方から直接報酬が渡されるハズですが……」


「えっ? 僕なにももらってませんが……」


「はい……そうですね……」なんだか困ったように受付の女の子は俺を見て微笑んだ。


「どうしたら……いいですか。これ」俺は混乱しながら言う。


「元のギルドのリーダーの方を探して直接貰うしかないですね……」苦笑いしながら受付は言う。


「あっこれは先々月分の未払いの給与と、よろしかったらこれを……」そう言って受付は先々月分の未払いの給与である100ゴールドと、紙袋に入った飴をトレーに乗せて出してきた。


「なんなんすか。これは……飴?」俺は飴の入った紙袋を持ちながら言う。


「あっ美味しいですよ。その飴。ぶどう味といちご味で……」



「あんまぁ」


クレーマー対策として子供向けの飴を渡すマニュアルでもあるんだろうか。そう思いながら俺は瓶から飴を取り出して舐めていた。そして先々月分の給与である100ゴールドを手に取り呆然として眺めていた。100ゴールドはちょうど俺が舐めている飴が買える値段だ。


「これ銀行に入れてたら10年後に10万倍とかになってたりしないかな……」


これからどうしようか……俺は財布の中を確かめた。中身にはなにも入ってなかった。しかし、俺は冒険者ギルドの喫茶店でコーヒーを頼んでしまっていた。


「どうしよう。ここのお金……」俺は呟いた。


「すみません。お客様。相席よろしいですか?」店員が俺に話しかける。

「どうぞ。いいですよ」俺が言うと大きなカバンを背にした女が「ども」と言いながら席に座った。俺も軽く会釈する。


「!」こいつはさっきジジイに胸を揉まれてセクハラされていた女だ。俺は一瞬動揺したがすぐさま平静を取り戻す。まぁ俺とは関係がない女だ。

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