第13話 JSもどきの策略 林樹 未来
市立
「智流、ミコ、この体勢は、ベース弾けないどころか、勉強すらままならないんだけど」
そうです。智流ちゃんはたかにぃの背中に抱きついているのです。だから、たかにぃは勉強が出来なくて困っているのです。
智流ちゃんは親友だしいい子なんだけれど、ちょっとたかにぃとくっつきすぎだと思います。兄妹で、そういうのはよくないと思います。
だから私は、智流ちゃんの方に向かって座り直し、こう言ったのです。
「智流ちゃん、ダメです。たかにぃの邪魔しちゃ」
「ちょ、ミコ、近すぎるって!」
たかにぃの膝の上で、たかにぃの背中に抱きついている智流ちゃんの方を向くということは、たかにぃのお顔が大接近するということです。と言うか、三人ともお顔が近いです。もちろん、わかってやっています。
「えっと、あの、と、トイレ行ってくる」
たかにぃが逃げました。ちょっとやり過ぎたかも知れません。今の内に、智流ちゃんを牽制しておきます。いくら親友とは言っても、言い聞かせなくてはいけない時があると思うのです。
「智流ちゃん。兄妹でそういうことしちゃ、いけないんだよ?」
そうすると、智流ちゃんは涙目になって訴えます。
「だって、智流はもっとがんばらないと、お兄ちゃんに嫌われちゃうんだもん」
「え? どういうことです?」
どうやら、親友のミコにすら、まだ言っていない事情があったようです。
「最近ね。大きくなってきちゃったの」
何となくというか、もう十分に察してしまったけれど、一応聞いてあげることにします。
「何が? あ、どこが? と聞いた方がよかったです?」
「おむねが……」
想像通りでした。成長期ですからね。智流ちゃんはミコより10cmも身長が高いし、標準的な中学3年生の体型です。おっぱいだって、そりゃ膨らんでくることでしょう。
ちなみにさっきも言いましたが、私も中学3年生で、智流ちゃんとは同じ学校で、同じクラスです。ですが、体型に関しては、平均的な小学6年生女子をやや下回るスペックです。
「お兄ちゃん、小さい子の方が好きだから、智流は嫌われちゃうんじゃないかって。だからせめてスキンシップを多くして、記憶に残してもらおうって。身体に刻み込んであげようって」
やばいです。やっぱり智流ちゃんはいけないことを考えています。ミコと同じことを考えています。
かずにぃのせーへきは、常に智流ちゃんと一緒にチェックしています。
ベッドの下はもちろん、本棚の奥とか、楽器ケースの中とか、pcの外付けHDDの中とか、スマホの中とか。
そこから得られた情報を分析した結果、智流ちゃんがたかにぃの守備範囲ライン上ギリギリの位置にいることは明白です。これ以上成長してしまえば、アウトです。アウトオブ眼中です。
最早、後がない。智流ちゃんがそう思ってしまうのも致し方ありません。
しかし、それでいいのです。それでこそ健全というものです。大丈夫です。たかにぃにはミコがいます。智流ちゃんには、早く正常な妹ポジションに戻ってもらいたいのです。
「智流ちゃん。たかにぃは智流ちゃんのこと、絶対に嫌ったりしないよ?」
「そんなこと、わからないでしょ?」
「大丈夫です。それが、きっと大人になるっていうことです」
そう。決して実らない恋に破れたりしながら、一段一段、大人の階段を上っていくのだと思います。
ミコは、バイパス使った別ルートで行く予定ですが。
「それより、今は、今しか出来ないことをやるです」
「そうね。いつまでもくよくよしていられないし。今日はどっちの番だっけ?」
「ミコが廊下当番です」
「わかった。じゃ、はじめるね!」
そう言うと、智流ちゃんは慣れた手つきで、いつものルーティンワークをこなしていきます。具体的には、引き出しチェックからです。
一方ミコは、部屋の扉を半開にして、廊下で待機し、壁に耳を当てて気配と足音のサーチモードに入ります。
「引き出し3段目奥、新入荷のブツ発見。カテゴリー、実写ロリ系。スマホ撮影に入る!」
「らじゃ!」
「本棚、二段目。以前のデータと並び方の差異を確認。カバーを外してチェックに入る……妹物ラノベを発見!」
「く……ら、らじゃ」
その時、階段の一段目に足を掛けた音を確認しました。エマージェンシーです。ミコは、智流にだけ聞こえるように、ドアを3回小さくノックし、そのまま閉めます。これは現状復帰作業開始のサインです。
そしてミコは
「たかにぃ! あのね、あのね。ミコ、アイス食べたいのです。一緒にコンビニ行っていいです?」
「ちょっ、こら、抱きつかないで。わかったから。智流は?」
「智流ちゃんも、今、来るのです。一緒に行くのです」
たかにぃは、今日も満更でもない顔をしています。もう少し、あともう一押しなのです。
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