第12話 ルーフトップ・ミーティング 2 科我 洲鳥
昨日に引き続き、今日も屋上ミーティングだ。
はい、今回の語り部は
では早速、コウ君の台詞からスタートです!
「昨日話した作詞の件なんだけれどさ。みんな作詞は無理ってことだったろ? だから今度は、みんなの周りで作詞が出来そうな人がいたら、推薦して欲しいんだけど。どうかな? じゃ、誰から行くかな。ロリタから行ってみるか」
「ちょっ! もう『タ』しか原型なくなっちゃったじゃん」
いきなりリーダーに苦言を呈するのはベースの
「俺のクラスだと、図書委員の子くらいかなあ。でも、俺より身長あって胸も大きいから、今まで一度も会話したことないんだよね。ちょっと無理かも」
小さい子にしか興味ありません、という主張を遠回しに表現する技術、賞賛しかない。
「クラス以外だと、妹の
「その二人は危険人物なので、極力バンドとの距離を取りたいからナシだ」
コウはそう宣言する。正しい判断だ。
「じゃ、次はストリー」
順番に指名されるのって、パターンが決まっているようでいないから、いつもビクビクしてしまう。
さて、どうやって答えようものか。
「………」
「
良一、の呼称の他、先輩と呼ばれることもある。そのバリエーションは多く、残念先輩、一応先輩、残一先輩、等々。良一応先輩なんてのもあった。また名字からもじって、「はしため」ではなく、「はしたない」と呼ばれているとの最新情報も報告されている。的確な表現だ。
ちなみにヒエラルキーの頂点は言わずもがな、ボーカルの
ところで、本家科我化ってなんだろう? どんどん新しい言葉が創作されていく。
「俺のまーりには、作詞出来るような奴なんて、いねーなー」
一瞬で終わってしまった。良一、お前、落ち担当ではなかったのか? もう少し頑張って欲しい。ここは背伸びするところだぞ?
「あっと、一応弟の
「ほう。じゃ、良一が打診しておいてくれ。この前のデモも聴かせてやって」
「あれ? うちまで来て巻坂君が直接打診するんじゃないの?」
「行かないよ?」
どこか、捨てられた子犬みたいに寂しそうな表情を浮かべる良一。とても打たれ弱い性格だが、忘れっぽい性格でもあるので、どうせあと数分で元に戻る。
「んーじゃ、ストリー、そろそろ大丈夫か?」
いかん。語り部根性を出して、本格的なメンバー紹介に興じていたため、何にも考えてなかった。第12話にしてようやくメンバー紹介ってのもおかしな話なのだが。
それより何とかしなくては。さすがにもう三点リーダーでは誤魔化せない。
「うちの、姉貴たちなら……いや、忘れてくれ」
血迷って姉貴たちを持ち出してしまった。大失態だ。早く代替案を提示しな
「お姉様!」
良一、それ前回と同じパターンだろ。地の文を途中で遮るのはやめて欲しい。しかも、復活まで1分も経ってなかったんじゃないだろうか。もうしばらく黙っていてくれ。
「その、お姉さんたちってどうなの? 大学生? 文系だったりするの?」
ほらみろ、コウが食いついてきちゃったじゃないか。元はと言えば口を滑らせてしまった俺の責任だと言うことは理解しているが、ヒエラルキー的に、全責任を良一へと転嫁したい。
「大学生ではあるけれど、多分、作詞とかそういうのには二人とも絶対向いてないと思うんで、却下して」
さ、この勢いで、代替案を!
「候補で言うなら、うちのクラス委員長あたりはどうだろう? 彼女、確か合唱部にも入ってたよね。だから作詞が出来るってわけではないけれど、歌つながりってことでアプローチしてみる価値はあると思う」
ほーら、俺としては珍しく長めの台詞だ。姉貴回避のため、委員長に犠牲となってもらったが、コウと委員長はついさっきも話してい
「
良一、だから、地の文を中断して台詞を入れるのはやめて欲しい。女性名が出てきたら、叫ばずにはいられない病気なのだろうか? とにかく、もう今回は一切喋るな。
と言うか、つい先日、良一は彼女に振られていたよね? もう忘れちゃったのかな?
「ああ、実はさっき紗倉川さんと話していたのも、作詞の件だったんだ。もっとも、頭の部分しか話せてなくて、まだ打診するまでには至ってない。今度またじっくりと聞いてみることにしよう」
そうか。そりゃ、まずいタイミングでコウに声を掛けてしまっていたようだ。多少遅刻してもいいから、あのまま紗倉川さんとコウが話していれば、この問題は既に解決済みだったのかも知れない。
「じゃ、ま、作詞の件は一先ずこの辺で締めて。次は、練習日程の件なんだけど」
「それなんだけれどさ」
タカシがここぞとばかりに口を挟んできた。
「申し訳ないけれど、しばらくスタジオには入れない」
「と言うと?」
「だって、もうすぐ中間考査あるじゃない」
そうなのだ。実は俺たちの通う
「そうだっけ?」
コウは、試験日程を知らないのだろうか?
「あー、試験とか興味ないから知らなかったよ」
なんてこった。第二の良一が生まれそうな予感がする。由々しき事態だ。
「みんな、試験ってそんなに大事?」
「「大事だよ!」」
答えたのはタカシと俺の二人だけだった。おかしいな。なぜ受験生が同調しない?
「それとね。練習日程もそうだけど、譜面をもらってからスタジオ入りするまでに、もう少し猶予が欲しい。当日いきなりってのは、今後、やめて欲しいんだ」
「………」
黙ったのはコウじゃなくて、俺だ。3点リーダーを用いて激しく同意してみたのだ。実はすごーく小さな声で「んっん」と囁きながら頷いているので、興味のある方はボリューム最大で確認して欲しい。
タカシはさらに続ける。ただのロリコンキャラじゃなかったようだ。
「俺、実はね。2年にあがる時、A組、目指していたんだよ」
解説しておく。飛前高校が進学校であることは前述の通り、そして我が校が特徴的なのは、成績によってクラス分けされるということだ。一学年にはAからDまでの4つのクラスがあり、俺とコウがいるA組が最優秀クラス。タカシはB組だ。これは一年次の成績によるものなのだ。
つまり、タカシはA組を目指していたが、及ばず、B組に甘んじているということになる。さぞ、悔しかったことだろう。
だからこそ、2年次では優秀な成績を修め、受験年となる3年次にはA組に入りたい、と、そう言ってるわけだ。
そこで、俺も加勢する。
「俺も試験期間は勉強に専念したい。もちろん、ギターは毎日弾く。指を動かしながらでも勉強は出来るからな。今までもそうやってきたし」
「そういうことならわかった。じゃ、試験が終わるまでスタジオ入りは無しにしよう。でも、試験が終わったらすぐにゴールデンウィークだよな。みんなのスケジュールはどうなってる? ああ、まだ急ぎじゃないし、wireグループで情報共有していけばいいか。ゴールデンウィーク中は色々と進めていきたいから、なるべく空けておいてもらえると助かる」
よし、懸念していた問題が解決したぞ。
さらにコウが続ける。
「今、2曲目のプロットを作っているところで、いつ完成してもおかしなくないところまできているんだ。今度は譜面だけじゃなくて、雰囲気がわかる程度のデモ音源もこっちで作っておく。仕上げたらサーバーにあげるので、試験期間中でもBGM代わりにして予習を頼む。試験後のゴールデンウィークに、リハをやろう。もちろん、1曲目の方もな」
「それは楽しみだ。試験もバンドもモチベーションがあがるよ」
「………(同意)」
「それとな。ちょっと先のことまで言っておくと、6月くらいにはライブハウスデビュー出来たらって思ってる。最初に言ったけど、カバーはやりたくないので、オリジナル曲をためないといけない。みんな、そのつもりでいてくれ!」
こうして第2回屋上ミーティングの幕は下りた。
そういえば、途中からメンバーが3人に減っちゃったような気がする。
すっかり存在感が希薄になっていたが、良一は「紗倉川さん!」って叫んで以降、一言も発していなかった。マジ話になると無口になるのか? それもあるとは思うが、そうか、俺がもう喋るなって地の文に書いたからか。これが語り部に与えられたギフトなのだろうか? そんな能力が備わっているとは思わなかった。
ちなみに、良一は3年D組だ。あ、察し。
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