第53話竜ヶ崎 般若院の枝垂れ桜 その三

53 般若院の枝垂れ桜 その三


 平成二十年三月三十日


どうしても般若院の枝垂れ桜に逢いたくて出かけてゆく。


前回は平成十六年の三月三十日(第22話・23話)である。


期せずして四年後の同日となった。


竜ヶ崎駅は変わりなく私を迎えてくれた。


うろ覚えではあるが迷うことなく桜の樹にたどり着く。


前回食べた近所のパン屋さんのパンが美味しかったので何も用意せず


来たが残念ながら定休日だった。


今日は例の大きな紙を用意して来た。


さっそく描き始める。


早く描きたくて手が震える。


心よりも先に手が喜んでいるようだ。


二枚目を描いている時、一人の中年女性が近づいて来て


何やかやと話しかけて来る。


珍しい事だ。


たいがいの人は絵を描いている私に気がつくと


おしゃべりを止めてそっと離れてゆく。


目と手は忙しいが口は暇なのでおしゃべりをしながらでも絵は描けるが


何となく違和感を覚える。


知り合いの人らしい女性二人も寄って来て私を囲むように近づいて来た。


もしかして子の人達スリ?なのでは・・・


テレビの見すぎかもしれないが近づき方が変だ。


画を見たくて近づいて来ている風ではない。


画を描きながらショルダーバッグのファスナーが閉まっているか確認し


近くの杭に掛けたTOTOバッグに目をやる。


私の警戒心に気がついたのか、やがて三人は去って行った。


気のせいだったのか、危ない所だったのか。、分からないが


用心するに越したことはない。


今日は大きな紙に三枚スケッチ出来たので満足する。


いつ来ても(まだ二回目だが)スケッチしたい気を起こさせてくれる樹の形である。




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