第18話 小手指 砂川堀の枝垂れ桜

18 砂川掘の枝垂れ桜


次の目標は小手指の砂川掘にあるしだれ桜である。


とりあえず小手指の駅を目指す。


地図を見ながら迷うことなく小手指の駅には着いたのだが、目的の砂川堀が分からない。


駅の有料駐車場に車を入れて通りすがりの人に聞くとすぐそこだという。


なるほど、すぐそこであった。


片手に愛犬のリードを持ち、片手にスケッチブックを下げて歩き、砂川堀へ。


ここで私は圧倒されて立ち止まる。


たまげたとはこのことか。


あっと息をのんで立ちすくんでしまったのである。


まさかこんなにあるなんて・・・


せいぜい四、五本の枝垂桜があるぐらいと高をくくっていたのだがこの本数は何なのだろう。


何年か分の枝垂桜を見た気がした。


この興奮をどう表せばいいのだろう。


深呼吸したら肺の中までピンク色に染まってしまいそうな程である。


とりあえず、この興奮を抑えるためとその全てを見るために歩くことにした。


人工的に作られた堀といおうかコンクリートの壁の底に水が流れている。


落下危険のためにフェンスが張ってあるその疎水の両側に何本かあるのか


白、桃色、薄桃色、濃桃色の枝垂桜が植えられている。


百本は越すだろう。


早咲きと遅咲きをうまく組み合わせてあるらしい。


いつ植えられたものだろうか。


結構な幹の太さと高さがあるから何十年という歳月は経っているはずである。


なのに知らなかった。


こういう桜が近くにあることを・・


悔しかった。


もっと前に知っていたら毎年のように見に来たものを・・・


と考えながら一、二枚スケッチする。


寺などのある一本桜と違い、目に映る興奮が手に伝わってこない。


といおうか、どの木に焦点を合わせていいものか、さっぱり手が動かない。


沢山あるというのも絵にならないものであるらしい。


とはいえ、この興奮を書き留めておきたかった。


一枚書いて、もう一度じっくりと見て歩いても飽きない。


帰りたくない気分だ。


このまま夜桜を楽しもうか。


なんてチラッと考えながらとりあえず車を取りにいく。


車で二度ぐるりと、ゆっくり回るが夕方で車も混んできたので


今日はとりあえず戻ることにする。


近いから今年のうちにもう一度見に来られるかもしれない。


今夜はこの桜の夢でも見そうだ。


山の中の一本桜も趣のあるものだが都会の雑踏の中で咲く花も


数が勝負なら負けてはいない。


特にこの花の色と色。


浦島太郎が竜宮城で見た景色はこんな感じだったかしらと


さっきの枝垂桜の色が目に焼きついてなかなか離れない。








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