第11話秩父 円通寺の枝垂れ桜
秩父 円通寺の枝垂れ桜
清雲寺の枝垂れ桜のスケッチがうまくいかなかったせいか満足していない。
円通寺という所にこの清雲寺の子孫がいるというので訪ねていく。
途中、白久の串人形を見てから行くが寺はすぐにわかった。
細い道をとおると円通寺に着く。
空き地のようなところに車を止めてスケッチブックを手に寺の方に回る。
当たり前のようにここの花も終わりであった。
親の樹の花が終わっていたのだから子供の樹も終わっていて当然だが
もしかしたらという期待が心の片隅にあったのは否定できない。
すっかり、葉桜であった。
それでも樹形はわかる。
後景に山があって絵にしやすい。
すくすく育ったお兄ちゃんという感じの樹である。
恋焦がれた恋人に会ったという思いはなく、リラックスして接することの出来る樹である。
この寺の子なのか孫なのか、小さな女の子がそばに来て人珍しいのか
ずっと話しかけてくれるのも心和む。
青い山がすぐ後ろにあるせいだろうか。
誰も見る人がいないのでとられる心配がないという安心感がある。
有名になってしまった樹は見ていて落ち着かない。
取られるかもしれないという切迫感がスケッチブックを広げる私の手を急がせる。
焦りを引き出すのである。
そのくせ美しいものを独り占めする罪悪感にさいなまれ、
つい人に教えたくなってしまう。何故だろう。
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