第9話 慈眼寺の枝垂れ桜その二

慈眼寺の枝垂れ桜 その二


その後、毎年のようにこの桜はスケッチするために見に来るが


やはり寂しく立っている桜に見える。


ひっそりと咲いている。そんな気がする。


花びらの一つ一つは華やかなのに、何故物悲しく写って見えるのだろうか。


そういう風に見えるせいか絵に色をつけていても悲しくなってくる。


過去に何かあったのだろう。


そうとしか思えない桜の樹であった。


昔、若いお女中だったこのしだれも今は、


凛として立っている老女の桜に見える。


やはりあの樹の根元には慎ましやかな女の人の霊が立っているのかも知れない。


近い事もあって翌年の春もこの慈眼寺に桜を見に来た。


今年も同じ感想を持つかどうか確かめに来たとも言える。


花の時期は今が盛りで美しく咲き誇って見える。


寂しく見える訳などどこにもない。


樹齢も二百年超える位でそれほど老いてもいない。


何がこの桜を物悲しく見せるのか。


私の心の持ちようではないと思う。


何度も見に来ているのだから・・・


こんなに見事に咲いているのに哀しいと思うのはきっと私だけなのかもしれない。


そう思いながらも一枚スケッチする。


別の方角から見れば別の目で見られるのかも知れないと思う。


でも、描いていながらやはり心が弾んでこない。


いつもなら早く色を付けたくて心がせかされて気持ちが高ぶって来るのである。


何故なのだろう。


その理由を私は知りたい。


この土地に何かあったのだろうか。


何回か通っているうちにいつかわかる時が来るだろうか。


それともイメージが変わって見えるようになるのだろうか。


近くなので年に何回か来ることが出来る。


その度に確かめに来られることが出来るのも幸せである。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る