第3話 突然の婚約破棄

 まさかのそのまま一年放置。ケビンなら何とかしてくれると期待していたのに!

 母上に現場を目撃させようとも考えたけれどケビンに止められたし、他に何にもいい案が思い浮かばなかった! どうすりゃいいの。

 

 十三歳になって、来年には学園へ入学する。

 父上に呼ばれたので謁見の間へ。形だけだけれど、学園入学の王命がおりるらしいからそれかなと思っていたら、何故かフォード卿もいる。


 何だ何だどうした。


 父上が俺の挨拶を受けて、厳しい目でフォード卿に促した。何だ何だ。首を見せる、最大の臣下の礼を取られた。どうしたどうした。俺、まだただのひよっこ王子よ?


「我が娘が不出来なあまり、殿下に不愉快な思いをさせてしまい、申し開きもございません」

 んんっ?


 実はあれからケビンは、母上に話を通して複数の人間を使って証拠集めをしていた。

 ただ会って話をしていただけでは、侯爵令嬢相手に婚約破棄をするのは難しい。ケビンも同じ考えだった。


 俺が勉強している間に二人が逢瀬を重ねていた日付、時間、その時の二人の状況、会話内容の詳細を報告していた。


 カリーナと弟は、最低でも週二回以上会っていたそうだ。カリーナの登城は週三から四日。さすがに会いすぎじゃ?

 俺がきちんと婚約者としてカリーナと接していたことなどもきっちり報告していたそうだ。


 なるほどー。何も言わないからどうしようかと思っていたけれど、ケビンは動いてくれていたようだ。という訳で、俺とカリーナの婚約はさくっと解消される事になった。


 実は母上も、二人が会っていたことはとっくの昔に知っていたらしい。二人を見かけた使用人や護衛が報告を上げていた。

 やっぱり城で密会なんて無理だったんだな。


 二人が初めて会ったのは、カリーナが城で勉強を始めて二週間後。その時弟は、護衛を撒いて部屋を抜け出していた。

 一目惚れしたカリーナに会いたくて、我慢出来なかったそうだ。


 弟は泣いているカリーナを慰め、ハンカチを渡した。カリーナはハンカチとお礼の品を渡そうとして度々出会った場所へ行く様に。

 カリーナがお礼をするくらいならと、母上は弟が敢えて抜け出せる状況を作るように指示。


 本人は上手に抜け出せたつもりだろうが、護衛はきっちりついていたのだ。そこで終われば良かったが、二人はまた会う約束をする。

 これはいかんということで、弟は部屋から出られない様にされた。


 そのうち弟は、部屋から抜け出していないはずなのに、外で目撃されるようになった。

 それによって厳しい監視を再開。弟が緊急時の王族専用隠し通路を部屋で見つけ、それを利用していることがわかったそうだ。


 母上が知っていたなら、どうして小説では明るみに出なかったのだろう?


 母上によると、弟は相当焦っていたらしい。俺は馬鹿だけど、問題行動は起こしていなかった。

 当然だけれど、俺が問題行動を起こしていれば王位と共にカリーナを手に入れやすい。俺が小説とは違う行動をしたことが良かったもよう。


 弟はカリーナからも特別な好意を感じてはいたが、カリーナは俺に合わせて来年学園に入学してしまい会えなくなる。

 それで、焦ってカリーナにプロポーズをしてしまう。カリーナは俺の婚約者だからと断ったが、弟は城に残って大公として二人を支える、だから今後も会って欲しいと言った。


 そこは絶対に断るべきところ。けれど、カリーナはその後も弟と会った。その時、母上が現れてハイ、アウトー!となったのが先週のこと。

 今は二人とも処分待ちの謹慎中だそう。


 説明の後、厳罰を二人に求めるかと父上に聞かれてびっくりした。相手はまだ十一歳。子どもの初恋物語程度に厳罰って何よ。弟を好きな人と結婚するのは嫌だけれど、それはないわー。


「いえ、求めません。幼い二人に最大限の配慮をお願いします」

 父上はしゃーないなみたいな顔をするし、何かフォード卿に至っては泣いちゃったよ。感謝しつつ謝ってくるから微妙に怖いよー。


「本当にそれでいいのか?」

「はい、構いません」

 本当にそれでいいです。フォード卿、腕にすがり付いてくるのやめて? 鼻水垂れてない? ねぇ? 服につけないでよ?


 その後の大人たちの話し合いで、カリーナは表向きは病気療養の為に婚約者を辞退した事になった。

 当然、学園への入学も見送り。ケビンによると、実際は王家からの婚約破棄。


 俺は随分とお優しい事をしたそうだ。こっそり会っていた時点でダメな事を理解していると捉えられ、幼いでは済まされないそうな。


 特に女性のそういう行動には厳しい世界。子どもが誰の子かわからなくなるからだ。弟も、兄から姑息な方法で王位簒奪を狙う奴認定されてしまった。


 フォード卿はそのまま第一王子派であることを公の場で表明した。後ろ楯を貰ったままって、王太子にもなりたくないんですけど…。


 発表後、何事もなかったかの様に過ごし、学園へ入学した。ちなみに俺の婚約者の席は空席のまま。母上から候補者リストだけを貰って、その中からなら誰を選んでもいいと言われている。

 相手方にも強制することなく、交流を深めてから考えましょうと話を通してあるそう。


 カリーナとの一件で、随分と気遣ってくれている気がする。気楽で何より。残念ながら婿入りできる令嬢はリストに無かった。


 のんびりしていたのが悪かったのか。俺の側近候補として幼い頃に遊んでいた面々と、貴族向け商会の長男が、気が付いたらモモーナに夢中になっていた。

 気を付けていたつもりが、小説通りの展開。既にこっそり会っていた時期を通り越して、自分たちの婚約者を蔑ろにしていた。


 学園にも付いてきてくれたケビンを通じて父へも報告はしているが、かなり酷い。

 本気でモモーナの事が好きなら、さっさと自分有責で婚約解消をするのが人として正しいと思うのだけれど、こいつら皆頭おかしいの?

 側近に選ばなくて本当に良かった。


 そんな状態で一年生終了。王子の成績は発表されない。むふふ。ケビンによると、中の上くらいだったらしい。この頭で良くやったぜ俺!

 ケビン、誉めろとは流石に言わないけれど、喜んでいる俺を呆れた目で見ないで。

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