第2話 二人の淡い初恋が育まれる
最近弟はちょっと、自分の頭の良さを自慢気に披露している気がする。
弟には俺に付いていた家庭教師がそのままついたらしいから、あの詰め込み教育について行けるのは純粋に凄いと思うが嫌な感じ。
小説の設定で基本スペックが完全に違うから競い合う気が無いのと、あまりディーハルトを弟と思っていないからかショックは無かった。
そもそも兄弟のはずなのに、二人で会うことも話すこともない。
基本別行動で、会うのは両親が揃う時の夕食くらい。王族の兄弟ってこんなに疎遠なものなの?
ただ、今の状況を考えると、小説の中の俺が授業をサボりまくった理由がよくわかる。
弟に勉強を追い抜かれ、チクチクされる。そんな状況でも次期王太子のまま。
プレッシャーとか色々、十歳にはきつすぎると思う。それを乗り越えてこその国王~とか言うつもり何だろうけれど、スペック低い俺にはただの嫌がらせだと思う。
半年後、カリーナが城での勉強を始めたと聞いた。カリーナは屋敷から城に通っているので、お互いの勉強の開始と終了の時間が異なる。
来ているのは知っていても、会うのは決められている月に一度のみ。今はカリーナにとって重要な時期なので、邪魔してはいけないと言われた。
自立心を養うとか。親や周囲に甘やかされて育った状況で、誰かに泣きつけばいいという考えを払拭させるそう。八歳相手に厳しくない?
いずれ王妃になることを考え、頼って甘えて俺に依存しては困るからだそう。幼い頃にそこをビシッと覚えさせたら、後はどれだけイチャつこうと構わないそうだ。
そもそも、俺に甘えるのはともかく、頼られたら共倒れしそう。前世の記憶で? いやいや、今世のスペックではとても無理。前世のスペックでも無理。
周囲に一杯優秀な人がいる筈なのに、どうしてここまで追い込まれるのか…。傀儡にならない為だとは思うけれど、少しは周囲を信用したっていいんじゃないですか。
ちなみに弟はカリーナと同じ時間に勉強が終わるらしいので、作為的な何かを感じる。
カリーナが泣いていようと、サボらなければ俺には見かける機会も無いのだ。なんだかなぁ。慰めたらカリーナの初恋は俺になる?
でも、そもそもが王妃教育が厳しいのは俺が馬鹿なせいだから、お前のせいだよっ! で終わりになる気も…。
昼も別々だし、真面目に勉強をしていればカリーナに会うことはない。悩ましい問題。
カリーナとの婚約からおよそ一年。
俺が授業を抜け出さなくても、カリーナと弟の淡い初恋が始まっているもよう。弟が勉強の後によく部屋を抜け出そうとするので困ると護衛がぼやいているのを聞いた。
それ絶対、カリーナに会いに行っているから。
このままになるのは嫌。
本格的に自分でも動かないといけない気配。
当て馬って虚しいな。母上辺りに目撃して貰って、婚約者も王太子も弟と変更にならないかな。直ぐには無理だろうなー。
まずはカリーナと弟に、勉強で大分先に行って欲しい。休憩をちょっと増やして貰おうかな。廃嫡は困るから、三十分くらい? もうちょっと?
視察を増やして貰えばいいか。視察に行ったら色々覚えられるし、机に向かって資料を見ているよりずっと効率的。
だけど、視察に行くのは時間がかかるから、資料でさくっと覚えられた方がずっと効率的。
やるせない…。
とにかく、二人の逢瀬も誰かと一緒に目撃しておきたい。まだ早いだろうし、二人が完全に盛り上がってからの方がいいかなぁ。
さすがに会っているだけでは、注意されて終わりそう。決定的な何かが欲しい。
しばらくして、弟が大人しくなったと小耳に挟んで、あるぇ? と思った。俺が真面目に勉強しているから、小説の筋書きとズレて来た?
そんな風に思っていた時期もありました。普通に通りすがりで二人を目撃した。二人仲良く座って話している。距離が近いし二人とも凄い笑顔。
随分逢瀬を重ねているようです。カリーナのそんな笑顔、俺は見たことありません。
一緒にいた、俺の側近になっちゃったケビン。今年二十五歳も驚いている。だろうなー。
護衛は無表情。さすが。単に反応に困っているだけかも知れんが。これから何度か目撃して頂いて、婚約者変更に協力して貰いたい。
お楽しみ中の二人に気付かれないように、迂回することにした。ケビンが物凄く物言いたげな顔をしていたけど、スルー。それでも俺を見捨てないでね。
ケビンは自分で希望した側近だ。カリーナとの婚約が決まって少ししてから、側近を選ぶ話が出た。頻繁に同世代と会う時間を作られるようになった。しかし待て。
側近はアドバイスをして貰ったり、注意してくれたりする貴重な存在のはず。それが同世代ってどうなの? 同じガキにアドバイス貰うの? 経験値お互いに低すぎない? という素朴な疑問。
年上の人がいいと思って、既に周囲での評価を得ている三十代くらいを希望した。けれど、俺には勿体無いと二十代の優秀な人になった。
三十代はバリバリで政治に食い込んでるしね。勿体無いよねー。馬鹿王子のお守りとか。ケビン本当にごめん。解放する時はちゃんと希望の場所に戻れる様にするから。
実際、年上にして良かったと思う。今も一緒についてきてくれているし、質問したら豊富な知識で色々教えてくれる。
同年代だとまだ勉強の真っ最中だし、こうはいかないと思う。
「殿下、先程の…」
「あぁ。多分二人は相思相愛だよね。俺、」と言った瞬間にケビンの顔が険しくなったので言い直す。内容じゃない、言葉遣い。
「私は正直、王位に興味がないを通り越して遠慮したいと思っている」
ケビンの顔が険しいのが治らない。俺まだ十二歳になったところ。二十五歳の圧は怖すぎる。
「私が王太子になるのにカリーナやその父上であるフォード卿の力添えが必要なら、それは弟も同じことだろう?」
「……」
お願い、ケビン。何かしゃべって。
「王位継承争いが起きないようにする為の婚約なら、私にその気はないし、だったらやる気のある弟に譲った方が…」
本当にお願い、ケビン。何かしゃべって。
「ライハルト様は、それでよろしいのですか?」
やっとケビンがしゃべってくれた。
「うん。さすがに平民とかじゃ生活できないだろうから、そこそこの領地が貰えたら嬉しいな。城に残るのはちょっと嫌だ」
廃嫡反対。その後、ケビンはだんまりだった。
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