転生?先がダメ王子 【短編版】

相澤

第1話 婚約者決定と同時に当て馬も決定

 会社からの帰宅途中に読んでいたWeb小説の短編。主人公は婚約者である第一王子ライハルトに蔑ろにされ、愛想をつかした侯爵令嬢カリーナ。

 典型的なWeb小説の話で、ざまぁ展開で男性は没落し、女性が別の男性と幸せになる話だった。

 読み終わった後しばらくしたら、題名も思い出せなくなる様な流し読み。ただの時間潰し。典型的なざまぁ話を読んでスッキリしたかった。



 ━━ただ、それだけだったのに。



 ライハルトは勉強せず、地位に胡座をかいて傲慢で教養の無い男に成長する。対して、幼い頃に婚約したカリーナは完璧令嬢になる。

 学園に入学して、ライハルトは男爵令嬢モモーナとの真実の愛に目覚め、卒業パーティーでカリーナに冤罪を吹っ掛けて婚約破棄を宣言するが、即座にカリーナの反撃に合う。


 そこに颯爽と現れる第二王子ディーハルト。ディーハルトは国王から書状を預かっていて、その場でライハルトの廃嫡と平民落ちが決定する。

 ディーハルトは昔からカリーナを好きだったと告げて、カリーナもそれに応えて幸せに暮らしましたとさ。な奴。


 そんで今。


 俺、ライハルト十歳。カリーナ八歳と婚約した直後。それを物陰から見ているディーハルト八歳に気が付いて、思い出してしまった。


 これ、さっき読み終わった短編小説…と。


 今十歳だから、正確には十年前に読んでいた小説なのかもしれないが、気分はついさっき。

 はっきりとした記憶は無くても俺は俺で、小説の幼少期エピソード的なことはまだしていないはず。今のところ、傲慢とは程遠い、はず。


 それでも俺は、僅か五千字程度で優秀な婚約者にざまぁされるだけでなく、初恋の踏み台になる第一王子になっている危険性を理解した。

 今はディーハルトの初恋シーンだった筈。


 カリーナは小説通りなら真面目な努力家と思われる。貴族としての責務を幼い頃から理解し、全うしようとする。

 確か、王妃教育が辛くて一人で泣いている時に弟に慰められて、そこから二人の密会が続きカリーナの初恋も始まった。


 直ぐに俺はただの当て馬に成り下がる。その時の俺は、授業を抜け出してばかりいたとかじゃなかったかな?

 それで余計にカリーナの教育が苛烈になったとかだったはず。


 この国の王子は他国に年齢の釣り合う王女がいなければ、十歳で婚約者を決めるのが慣例。

 当然弟にも婚約の話が持ち上がるが、婿入りせず大公の位を貰って、城に残ることを選ぶ。


 そうなると無用な争いを防ぐ為、婚約者は選ばれない。弟が婚約するかもしれないと知ったカリーナは、弟への初恋を自覚。その想いを封印することにする…。


 初恋を封印? そんなの止めて欲しい。普通、弟を好きな人と結婚なんてしたくなくない?

 そんなの嫌だ。しかも将来的に一緒に城で暮らす事になる。


 弟は城に残って俺を支えたいとか良い奴みたいなこと言うけど、それ、カリーナの側に居たいだけじゃないの? と俺は思った。泥沼不倫の気配しかしないやん。


 一応長男だから俺がこのまま王太子になって国王になる予定だけれど、国で一番偉い人になるのに、一番身近な人間の筈の奥さんと弟に裏切られ続ける訳? 嫌過ぎるんですけどー。


 小説でよくある実は父親違います的な事をされても、相手が弟じゃわからんやん。ますます嫌。

 影で笑われ続けながら、きっつい国王って言う仕事をするとか、何の嫌がらせ。


 そもそも、家庭教師が出入りする勉強部屋も密会場所も、限られた人物しか出入り出来ないところ。王家の人間でも、必ず二人以上連れて移動する決まりがある。

 二人で密会っておかしくない?もしかして、真面目にルール守ってるの俺だけ?


 考えれば考える程、小説の内容と現実に差異を感じるんですけど。考えてもわからない。今、目の前にある現実を中心に考えた方が良さそう。



 とにかく勉強しよう。



 無理だった。この王子、致命的に記憶が出来なかった。よくある強制力かと思うほど、何も覚えられない。ショックで泣いたわ。思考能力まで低くなくて良かった。


 そして、驚くほどの詰め込み教育。国にいる貴族全員覚えろとかこの王子の脳みそじゃなくてもきつくない?

 記憶力が低すぎる状態では、苦痛でしかない。逃げ出すのにも納得。かと言って本当に逃げたら破滅一直線。小説通りになってしまう。


 悩んだ末に、父上に家庭教師の変更をお願いした。まともに取り合って貰えなかったので、必死で半泣きで訴えたら、母上が援護してくれた。

 母上はきちんと話を聞いてくれたので、自分は記憶力が致命的に悪いこと。詰め込み教育が向いていないことを伝えた。


 有難いことに、直ぐに家庭教師が変更された。新しい家庭教師は良かった。何でもかんでも丸暗記をしろとは言わなかった。

 新しい家庭教師は、何故それが必要かとかの原因と理由を丁寧に教えてくれた。


 やっぱり勉強はこうでなくっちゃ。理由も原因もわからない文字列の暗記はこの頭では無理だ。

 ペースもゆっくりなのか、あっという間に弟に抜かれた。小説の王子はここで完全に心が折れたのだろうけれど、俺は大丈夫だった。


 実はこの頭で、三か国語を余裕で話せる。それだけでもう立派なものだと思っていたし、授業を抜け出そうとは思わなかった。

 新しい先生たちの授業は、どれも面白い。


 貴族の丸暗記は早々に諦めたが、苦労したのは各領の位置と特産品。さっぱり覚えられない。

 トイレに地図を貼ったよ。刷り込みで覚えるしかない。


 更に、お願いして各領地の視察とかに行かせて貰えるようにした。ただ覚えるのは難しくても、経験した事は割りと頭に残ると分かったからだ。

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