第26話 ハンカチ
僕は最近思いっきりトレーニングをしていなかったのでビビッドさんと一緒に筋トレに励んで、それが終わったら走り込みをして休日を満喫した。
もちろん、気配を消す練習も怠らずに夜20時くらいまで修行していた。
ヘトヘトになって寮に帰ろうとしていた時に、妖精さんたちからまた陛下が離宮に来たことを告げられた。
「えー。今日はもうヘトヘトだよ」
『無視しちゃえばいいんじゃない?』
「そんなわけにはいかないよ」
そう言って、急いで離宮に向かった。
裏口から入って、玄関まで行くと先生はもう来ていた。
「こんばんは」
話しかけると先生は一瞬びっくりした。
「こんばんは、真っ暗だったからもう寝たのかと思っていた」
「あ、えーと電球が切れてしまって、もちろんこんな時間にまだ寝たりしませんわ」
「そうか。今日はどう過ごした?」
「刺繍などをして過ごしました」
また、嘘をついた。嘘を嘘で塗り固め僕はどうなってしまうんだろう。
そもそも、僕は女性がする暇つぶしなどをあまり知らない。
「何を作ってるんだ?」
「え、えーと、ハンカチに龍を縫い付けています」
なんとなくそれっぽく聞こえるようなことを言ってみた。先生はドア越しにでも分かるくらい動揺した後、少し焦りながら言った。
「そ、それは出来上がったらどうするんだ?」
「? どうもしませんけど」
「つまり、誰かにあげたりとか」
「欲しいんですか?」
少し不敬だなと思いながらそう尋ねると先生は「欲しい!」といった。
「あ、いや、図々しいな。ロイアナが作り終わった時、気が向いたら私にくれると嬉しい」
僕は刺繍などできないのに、そんなことを言ってしまったことを早くも後悔した。
だけど言ってしまったものは仕方がない。
「分かりました。出来上がったら陛下に差し上げます」
「!! 本当か! ありがとう。楽しみに待っている」
先生はそう言って本当に嬉しそうにした。
しかし、刺繍か。とりあえず図書館に忍び込んで本を借りてこないとな。
先生とはそのまま他愛もない話をしたあと頃合いをみて「おやすみ」を告げて僕は疲れた体に鞭打って、城の図書館まで本を借りに行き、勝手に借りてまた離宮まで戻ってきた。
寮だといくら1人部屋になったからといって、誰かが急に入ってきたりすることもあるし危険だと思った。
「ハンカチの他に糸と針が必要だな。今度の休みに街まで買いに行かないと」
そう言いながら本を読んでいると妖精さんたちが慌てた様子で現れた。
『ロイアナ! 大変なことになった!』
「え! どうしたの?」
『エフテイン王国が、』
「何?」
『エフテイン王国が魔王サタンを召喚した!』
「どういうこと?」
『何をする気かは分からないけど、何かとんでもないことを企んでいるに違いないよ! 僕たちじゃさすがにサタンには敵わない。ロイアナ、どこか遠いところに逃げた方がいい!』
でもそれからも僕は普通に過ごした。護衛をしてトレーンングをして、次の休みには糸と針を買いに行った。そして刺繍をして護衛をしてトレーニングをする日々になった。でもそれから妖精さんたちを見ることはなくなった。小声で呼んでも出てきてくれなくなった。僕は妖精さんたちのことがとても心配になったけど、どう探していいのかも分らず、結局は何もすることが出来なかった。
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