第25話 お持ち帰り?

「ふわああ」


大きなあくびをしながら朝目覚めると全く知らない場所にいた。

それと同時にかなり焦った。昨日の飲み会の途中からの記憶がまるでない。

そして自分が寝ている両脇に誰かの気配がするのだが、怖すぎて確かめられそうにない。だけどこのままここにいても事態は良くならないだろうし……。

ロイが意を決して恐る恐る横目で右側を見るとえらく整った顔が見えた。


「せ、先生!?」


少し大きな声が出てしまったけど、起きる気配はない。さらに今度は左側をゆっくりと見てみた。


「ライオネルさんまで!」


その声にさすがにライオネルさんは起きた。


「なんだ、ロイ。大きな声を出すな」

「い、いやいや、だってなんで一緒のベッドに寝てるんです?」

「んー? そりゃお前が俺たちの忠告も聞かずに泥酔したからお持ち帰りしてきてやったんだろうが」

「お、お持ち帰りって」


若干キレ気味のライオネルさんにそれしか言えずに固まっていると右側の先生が寝ぼけながら僕に腕を回してきた。


「ひっ、ちょっと先生起きてください! ねぇ! ちょ、ライオネルさん助けてください!」

「無理だな。自業自得だ。俺はちゃんと忠告したしな」

「あんなの! 冗談と思うじゃないですか!」

「まぁ確かにあれは揶揄っただけだが」

「でしょ! なら早く助けてください」

「その態度が気に入らないな。まだ仕事の時間ではないし、俺はもう一度寝ることにする」


そう言ってライオネルさんは本当に寝てしまった。


「そ、そんな」


すぐにライオネルさんの寝息が聞こえてきて、寝つきの良さにびっくりしたと同時にガッカリした。

僕が解放されたのはさらに1時間ほどしてからだった。

起き抜けに僕を抱えていたことに気付いてびっくりした先生にベッドから弾き飛ばされたのだ。


「痛っ! ひどすぎる!」

「あ、ごめん、ロイ君。大丈夫?」

「大丈夫ですが、先生、奥さんができたら気をつけた方がいいですよ」

「あー、はは。気をつけるよ。奥さんになってくれる人が現れたらね」


自分から言っておいてそんなことを軽く言う先生にまたもや簡単にチクリと胸が痛んだ。

なんなんだ僕、女々しすぎるな。


「それで、ここはどこなんですか? なんで僕はお2人に挟まれて寝ることに?」


そう言うと、今の騒動で二度寝から覚めたのかライオネルさんが答えてくれた。


「何にも覚えていないのか? 俺たちを弄んだんだな」

「え」


びっくりして固まると先生が教えてくれた。


「はは、冗談に決まってるでしょ。昨日ロイくんが泥酔してしまったから私たちで運ぶことになったんだけど、昨日は厄介なことにシルバーがテンションの高い日だったんだよ」

「ええ!? 僕まだそのバージョンのシルバーさんに会ったことないんです! くそー。意識さえあれば」

「まぁ、もう特殊部隊室に入り浸ることになるんだからいつでも会えるよ」

「それで、シルバーさんがテンションが高い日ということと3人で寝ることになったことに何か関係があるんですか?」

「特殊部隊だけで2次会をするって言ってメンバーを集めに回ってたんだよ。彼に捕まると泥酔してても関係なく叩き起こされて連れて行かれるだろうからね」

「匿ってくれてたってことですか?」

「そうだよ」

「ありがとうございます」


そして3人でその部屋を出ると執務室につながっていた。

そこにフェルトとレオナとビビッドが入ってきた。


「あー、ロイ。昨日の飲み会では顔見られなくて残念だったわ。ねぇ」


そう言いつつライオネルさんをチラチラと見るレオナ。


「僕も探したんだけど、全然見つからなかったよ。えっと、ライオネルさん、僕の同期のレオナとフェルトです、レオナ、フェルト、ルックナー閣下だよ」

「お久しぶりですぅ。閣下。私のことは覚えていらっしゃらないと思いますがレオナですぅ」


なんなんだその可愛こぶり方は。絶対に間違っていると思いながらフェルトを見るとフェルトも引いた顔をしてレオナを見ていた。


「フェルトです」


フェルトも一応そういうとライオネルさんはいつもの無表情を崩さずにいった。


「レオナ、フェルト。もちろん覚えている。卒業おめでとう、これからも国を支える軍人として頑張ってくれ」

「「はい」」


そう言われてレオなだけじゃなくフェルトまで目を輝かせて答えていた。だけどちょっと気になるところがあった。

「ねぇ、2人ともなんかゲッソリしてない?」


そう聞くとフェルトが答えた。


「ああ、なんか昨日飲み会が終わった後、シルバーさんっていう特殊部隊の先輩にさらわれてさ。さっきまで、すっごいテンションで飲んでて、明け方になったら人が変わったように静かになってやっと解放されたんだ」

「昨日は本当に大変だったわ」


そう言って2人が遠い目をする中、ビビッドさんだけは僕ににこやかに爽やかな笑顔を向けて言った。


「ロイ、爽やかな朝だな。今日はみんな休みだろう? 一緒に筋トレしないか?」

「いいですね! ぜひお願いします!」


僕がそう答えると他のみんなはドン引きな顔をした。フェルトとレオナはゲッソリしながら寮に帰って行き、先生とライオネルさんもまだ寝足りないのか自分の部屋へと帰っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る