第24話 飲み会

それからも、答えが出せていない僕のもとへ先生は通い続けている。

先生が付き合っている人はいないと言った時、胸がツキリと痛んだ理由を僕はもう知っている。知っていて先生に答えを告げられていないのは、臆病になってしまっているからだ。

答えてしまうと言うことは、つまりこのドアを開けると言うことだ。さすがにロイアナがロイと同一人物であったことがバレてしまう。

僕は、怖い。

ロイとして、先生と接する時間も、ロイアナとして陛下と接する時間も、僕にとって初めての経験で何者にも変え難く、とても大切なものだから。

ロイが女だとバレてしまえばフェルトとレオナにもう会えなくなってしまうかもしれない。軍を追い出されるのはもちろん、処刑される可能性だってある。軍に入ろうと決めた頃はあまり処刑されるのは怖く思わなかったけど、今は僕にも大切な物ができた。

この関係が終わってしまうのが、またひとりになってしまうのが僕はとても怖いんだ。




朝出勤すると卒業祝いに全部隊で飲み会が開かられることになったことをライオネルさんに伝えられた。

「僕、まだお酒飲んだことないんで楽しみです!」

「それはたくさん飲まされないように気をつけた方がいいな。気を抜くと誰かにお持ち帰りされるかもしれないぞ」

「お、お持ち帰り!? 僕は男ですよ!」

「はは。分かってる」


その日も1日陛下の護衛をして過ごした後、食堂でフェルトとレオナが一緒に食事をしていたので僕もそこに座った。


「飲み会があるって聞いた?」

「聞いたわよ。全部隊でやるのよね! やっとルックナー閣下に紹介してもらえる日が来るのよ!」

「レオナ……。ライオネルさんはやめた方がいいと思うよ」

「いやよ。絶対紹介してもらうわよ」

「わかったよ。飲み会はここでやるのかな」

「いや、どっか街の方に降りてでっかい居酒屋を貸し切るらしいぞ」

「じゃあ、みんなで街に降りられるんだ。楽しみだね」

「なー。俺もやっと自力で雑誌とか買えるぜ」

「卒業したら街に行き放題だもんね」

「でも少し寂しいわね」

「なんも変わらないだろ。俺たちの食堂はここだし」

「休みの日は街に一緒に遊びにいこうよ!」


そんな会話をして護衛や授業をする日々を何日か過ごしてついに卒業の日になった。

軍への正式な配属式があったあと、みんなのお待ちかねの飲み会会場への移動が始まった。

僕は会場に向かう軍人たちの中からフェルトとレオナを探そうと思ったけど、全部隊での飲み会と言うだけあって人が多く全然見つけることができないでいた。


「ロイ君、どうしたんだい? キョロキョロして」

「へいっ、先生。いやフェルトとレオナが居ないかなーと思って探してたんです」

「へいって、はは。もう居酒屋の気分なの? けどこの大勢の中からじゃ見つけられそうにないね。諦めて私と歩きなさい」


先生はにこやかにそう言った。

最近、ロイアナとして話す機会が多かったので「陛下」と呼びそうになったけど、どうやらこのお祭り騒ぎで助かったようだ。


「ロイ君、お酒飲んだことあるの?」

「いえ、初めてです! 楽しみです」

「それは気をつけないとお持ち帰りされるかもしれないね」

「……それ、ライオネルさんにも言われました」

「なんだ、先を越されたのか」


先生はそう言って笑っている。2人して僕を揶揄うのが趣味のようだ。

そうこう言っているうちに会場に着いた。でかい趣のある建物で僕も街に降りてきた時に何度か前を通ったことがある居酒屋だった。

結局その大きな会場では席に着く前に2人を見つけることができなかったため、先生の隣に座ることになった。ざわざわとみんなが話しながら席について行き最後の一人が座ると先生が乾杯の音頭をとるために立ち上がった。


「えー、卒業生のみなさん、卒業おめでとう。君たちは平民からでも軍に入ってやっていけると言うことを証明した名誉ある一期生となった。また、正式に配属された今日からも誇りを持って仕事に励んでほしい。みんなの門出を祝って、かんぱーい」


「「「「「「かんぱーい」」」」」」


一斉に乾杯をしてどんちゃん騒ぎが始まった。

一杯目は注文を取る方が大変と言うことでみんな揃ってビールだったので、僕の初めてのお酒はビールになった。

恐る恐る口をつけてみると口の中にシュワシュワと苦味が広がった。だが昔から毒入りのお菓子などを食べていて苦さなどにも抵抗がなく美味しく感じることができた。


「うまい」

「お、ロイ君いける口だねー。ささ、どーぞどーぞー」


そう言いながら先生は僕のグラスに追加で瓶ビールを注いだ。

どんどん運ばれてくるご馳走やいろんな味のお酒をこれでもかと言うほど食べ、呑みまくった。

それから飲み会が終わる2時間も立った頃には完全なる酔っ払いが出来上がっていた。






「先生もー、飲んでー、ふぇっ」

「うわー。すっごい酔っ払っちゃったね。ロイ君、毒とか慣れてるからお酒もいけると思ったけど」

「毒と酒は違うでしょうよ。全く。しかもあれだけ飲めばそりゃこうなります」


いつの間にか近くにきていたのかライオネルさんが先生を嗜めていた。


「とりあえず、他の泥酔者もみんながちゃんと運んでいってくれたみたいだし、残ってるのはこの子だけだよ」

「運ぶしかないですね。ですが先ほどシルバーが特殊部隊だけで2次会しようと騒いでみんなを探していましたよ」

「えー、今日はテンションが高い方なのか。厄介だな。じゃあこのままロイ君を寮まで運んだら叩き起こされて2次会に引っ張り出されるよね」

「そうなるでしょうね。だからちゃんと忠告したのに。というか貴方がついていたのに」

「じゃあ、執務室の横の仮眠室まで運んで、2人で2次会するってのはどう? 仮眠室に1人で寝かせていてもシルバーが探しに来ないとも限らないし」

「なんですか。そのもっさい集会。いやですよ」

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