第22話 ジウェイン・コールライト②ー2

その夜、さっそくロイ君としっかり話してみようと食堂を探してみたけど全然見当たらず、部屋にも戻ってなさそうだったので、同室のフェルト君に聞くと、たまに居なくなることがあるんだそうだ。フェルト君は若干言いづらそうに答えて、おそらく敷地内にはいると思いますと教えてくれた。


 少しの散歩がてら探して見つからなかったら今日はもう諦めるかと思いながら、散歩した。

 まだ夜の8時くらいなのでどこの部屋も賑わっている。


 そうして歩いていると西の塔付近まで来てしまっている事に気がついた。そういえば全然興味は無かったけど一応どんな暮らしか確認しておくか。そう思い、塔の方に入っていく。

 中はすっかり草が生えまくっていてとても人が住んでいるとは思えない。それも王族として我がままに育った娘がこんな庭の状況を使用人に許しているとは思えないな。


 更に入っていくとやっと塔が見える位置に来た。中の部屋は明かりが一つも付いていない。まだ8時だ、寝る時間じゃない。それに万が一、ロイアナが寝ていたとしても一緒に連れてきているはずの使用人達はまだ働いている時間のはずだ。普通は24時間体制で誰かしら起きている人がいるはずなのにこの塔はまるで誰もいないかのように真っ暗だ。

 もしかして、逃げたのか? そうだとしてもおかしくはない。結婚したと言うのに全く会いに来ない夫で、お互いに顔も知らない。しかも、信用できないとまで手紙を出した男だ。

 そうか、逃げたか。幸い婚姻を結んだと言う情報はごく一部の人間しか知らない。最近そういえば王国からロイアナを返してくれと手紙が来ていたな、国に帰ったのか。

 王国とのいざこざの解決の為の婚姻だったからな。王国の不穏な動きを考えるとここに大切な娘がいると戦いづらいということか。

 

 私がそこまで考えながら塔のほんの近くまで歩いてくると、中で明かりがついた。

(なんだ、居たのか)


 私はドアの近くまで歩いて中に声をかけた。


「誰か起きているものは居るか」


 そうするとしばらく後に中から「はい」と返事が聞こえた。


「ロイアナは居るか、少し話がしてみたい」


 一向にドアを開く気配はないまま次の言葉が聞こえて驚愕した。


「私がロイアナですが、どちら様でしょうか」


 え!? 本人! そんなことがあるか普通。客の対応など使用人がするものだ。


「私はジウェイン・コールライトだ」

「……そうですか」


 中からはさして驚きもしない声が返ってきた。


「申し訳ありませんが、皇帝陛下ご本人様と確認できるものはございますか」


 その問いにそれもそうかと持ち物の中から懐中時計を取り出して覗き窓のところにかかげてやる。


「これに刻んである王家の紋章でどうだ?」

「そちらは……王家の方ではあるのでしょうが、ご本人様と確認できるものではないですよね」

「確かにそうだが、今、王家の紋章をもてるものは私しかいない。私には兄弟も居ないし両親も死んだ。親戚は皆、爵位を持って王家の人間ではない」

「影武者の方が持っていたりとかは……」

「私に影武者などいない」


 そう言ったところで中から息を飲む気配がした。ひどく動揺している気配がしている。私が訪ねた時も王家の紋章を見せた時も全然動揺してなかったのに私に影武者がいない事がそんなにどうようする必要のあることか?


「申し訳ありませんが、本日、は、お引き取りください」


 なぜかひどく混乱した声で言われて私は言われた通りに帰る事にした。


「分かった。また日を改めて伺う事にしよう」


 中から返事は聞こえなかった。

 

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