第21話 ジウェイン・コールライト② ー1
今日は特に執務が忙しい。最近は週の半分はロイ君が護衛してくれているけどそれ以外の日はライオネルが護衛兼秘書をしてくれている。
ロイ君が皇帝陛下は好きになれないなんて言うものだから私自身のことを影武者だと嘘をついて任務にあたらせているけど、よくもまぁいまだに信じているものだと少し楽しい気持ちにもなる。だって、彼の前でジウェイン・コールライトと署名までしているのだ。いくらなんでも私は他人にそこまでやらせたりしない。
彼は人と一線引いて接しようと努力しているように見えるけど、こう言うところで簡単に人を信じてしまう世間知らずなところがあるのだ。
今日はロイ君は非番なのでどこかでトレーニングをしていることだろう。
そこで、ビビットに課す任務が舞い込んできたので紙で鳥を作り知らせを飛ばす。
前にロイ君の前で飛ばしたらやたら興味深そうに見ていた。
鳥を飛ばしてからしばらくすると、任務内容を聞きにビビットがやってきた。
「不正の証拠が整った。ここの屋敷を取り押さえてきてくれ。お前、また筋トレしてたのか? 汗だくすぎるぞ」
「ロイのトレーニングに付き合ってたんすよ」
「やっぱりロイ君はトレーニングなのか」
想像通りすぎて少し笑ってしまう。
「陛下はロイがお気に入りっすよね」
「私は、国民みんながお気に入りだよ」
私とビビットのその会話にライオネルが言葉を挟む。
「それはさすがに気持ち悪いですよ。陛下」
「ライオネル、なんで君は私に対してだけその不気味な笑顔で話すんだ」
「心外ですよ陛下。俺の笑顔は状況さえ無視してしまえばモテそうだとよく言われます」
「その状況が問題なんだろう。拷問の時だけなんだから」
「陛下だって、訓練生の前でだけやたら優しそうな笑顔じゃないですか」
そこまで話すとビビットが冷ややかな目で見てきているのに気がついた。
「お二人の会話は熱々のカップルみたいっすよね」
「「やめろ」」
ライオネルなんて男同士以前に、趣味が怖すぎてプライベートでは絶対に関わりたくない。ロイ君がお気に入りというのは、そうかもしれない。特殊部隊に入った唯一の新人だから気にかけてしまうのだ。今回の訓練生はほぼ平民だ。私の統治する国の新たな取り組みとして平民を軍に起用するためにテスト的に平民を中心に兵士を募集し入隊試験を行なった。各隊に2名ずつ入れた。特殊部隊はクロー君が精神に異常をきたしているのでロイ君だけだし、彼の一生懸命さを見ると応援したくなるのだ。
そのあと、早々にビビットを任務に行かせて私は執務を急いで終わらせた。
「もしかしてロイのところに行かれるんですか?」
「ああ」
訪ねてくるライオネルに短く返事をすると、ライオネルがふふふと笑った。
「なんだ」
「ビビットの言うようにロイのことを相当気にいってらっしゃると思いまして」
ライオネルは続けて尋ねてきた。
「ロイにいつまで嘘をつくつもりです? いずれ本物の陛下だと気づかれますよ」
「……今度」
そう答えるとライオネルは呆れた顔になった。
「お気に入りの生徒であり部下に嫌われたくないのは分かりますけど、ロイはあなたに影武者をやらせるのはまだしも執務までやらせている陛下をどんどん嫌いになってると思いますよ」
「分かっている」
私はそれだけ答えると、ロイ君のトレーニングに付き合おうと執務を急いで終わらせる事にした。
それからすぐ執務を切り上げて特殊部隊の待機室に向かった。入り口までくると中からかすかにロイ君の話し声と時々シルバーが相槌を打っているのが聞こえた。
「……それでーーーー引き取られた先でもーーーー」
聞き取りづらいけど所々聞こえてくる会話を想像するに、ロイ君がシルバーに自分の境遇を話しているらしい。 今は入らない方がいいだろうな。
そう思って踵を返そうとしたところで聞こえてきた話に立ち止まってしまった。
「僕は、母国と家族を裏切ってでもこの国とこの国にいる人を守りたいと思いました」
聞き取りずらかったはずなのにやたらとはっきり耳に入った。
私はそんなこの国への忠誠心が嬉しくなって今度自分もしっかりロイ君と話そうと思った。
自分の愚かさにも気づかずに……。
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