第17話 エフテイン王国の現状
妖精さんにエフテイン王国の様子を見てきてもらう約束をしてから約束の3日がたった。
僕は人気のない場所まで来ると妖精さん達を呼んだ。
「妖精さん?」
すると、何もなかった空間にパッと妖精さんが現れた。
『ロイアナ! ただいま!』
「おかえり、様子を見てきてくれてありがとう。どうだった?」
『それが、あの国は結構大変な事になってるみたい』
「え、どうしたの?」
『ロイアナが居なくなって聖女と妖精の加護がなくなったからあちこちの山が崩れたり川が氾濫したりしてるみたい。それでエリザベスが各地に祈りに行ったんだけど、それが妖精の王の怒りに触れてさらに悪化させたらしくて、国中が王家に対して反感を持ってる』
「反感?」
『うん。実はロイアナがあの国を出た後、エリザベスが聖女であると言うこととロイアナから虐められていたっていう話をエリザベスが泣きながら国民の前で言ってしまったみたいなんだ。それだけなら良かったかもしれないんだけど、エリザベスと王妃が日頃のストレスの吐口を失って、周りの人を虐め出した。そんな時に各地で災害が起こり始めたらしい』
僕が黙って妖精さんの話を聞いているのを見て妖精さんは続きを話してくれる。
『そして、エリザベスと王妃に虐められた人が次々と仕事をやめて行った。そのあたりで国民はみんな真実に気づいたんだ。ロイアナこそが聖女で、エリザベスはロイアナをいじめていたんだろうって事に』
「それで何でコールライト帝国にちょっかい出す事になるんだろう」
僕は疑問に思ってそう呟いた。
『王家への反感を他国への憎しみで消そうとしているみたいなんだ。戦争を始めて有耶無耶にしようとしている。今、着々とコールライト帝国の悪い噂が流れている最中みたい』
「そんな……」
僕は言葉を失った。そんな政策とも呼べない政策しか繰り出せないエフテイン王国に怒りを覚える。
「そんなその場しのぎでどうにかなるはずがない。災害続きの王国が今まさに聖女の加護で豊かになっている帝国に……そもそも聖女うんぬんが無くても勝てる相手ではないのに」
自分の父の救い用のない浅はかさに絶望する。
僕は今聞いた内容をできるだけ間接に陛下に報告する手紙を書いた。これを読んでくれるか分からないけど、この国に骨を埋める覚悟が出来た僕にはエフテイン王国の企みをこの国の陛下に報告しない選択肢が浮かばなかった。
手紙の最後に自分の本当の名前を書く。情けない事にコールライトの名前を名乗ってもいいものか分からなかったのでロイアナとだけ記した。そして、まさか無いとは思いたいがもしかしたら結婚をしたことを忘れられている可能性もあったので最初に陛下から貰った失礼な手紙も同封しておいた。
さて手紙は出来上がったけど、渡し方はどうしよう。あの執事さんは僕のことを嫌っている節があるので渡してくれない可能性がある。陛下の執務室の場所は把握しているので夜中の間にこっそりと机に置いておくことも出来るけど、元王女からの手紙がそんな形で届けばものすごく怪しまれて、読んでもらえない可能性がある。
僕は仕方なしに走り込みをしていたら西の塔の辺りでご婦人に渡された事にしてルックナー閣下に託して陛下に渡してもらう事にした。
とは言ってもなかなか捕まらないのが閣下だ。探しても簡単に見つからない。3日は探しているけど全く会えていない状況だ。その間、手紙は持ちっぱなし。さすがに危ないので早く渡したい。
そう思いながら食堂で夜ご飯を食べていると、またもやジウ先生が相席してきた。
「やあ。今日の訓練はいつもみたいに気合が入ってなかったけどどうしたんだい?」
「いえ、ルックナー閣下を探しているんですが見つからなくて、考え事とかしてたらあんな態度に……すみません」
「いや、構わないけど。ライオネルに何か用事があるの?」
「はい。実は、西の塔の辺りで走り込みをしていた時に」
「西の塔!?」
なぜか前のめりに聞いてくる先生に内心びくつきながら続きを話す。
「は、い。その辺りを走ってたらご婦人に話しかけられまして」
「え!? 話しかけられたの!?」
「え、はい……何でそんなにびっくりしてるんですか?」
「……いや、それで?」
「この手紙を陛下に渡して欲しいと言われたんですが」
「そ、そう。どれだい?」
幾分か落ち着いた先生に例の手紙を見せる。先生は手紙を受け取って表も裏もしっかりと見た後、懐にしまった。
「じゃあ私が渡しとくよ」
「本当ですか! ありがとうございます」
良かった。これでとりあえず結果が分かるまでは訓練に集中できるな。
僕はそれまでフェルトと気配を消す練習をしたりして時間を潰した。
それから数日後、塔の見張りをしてくれていた妖精さん達から陛下からの返事の手紙が届いた。
手紙の内容は大体こうだ。陛下もエフテイン王国について怪しいと思い調査中だったが、エフテイン王国の内情まではまだ把握することができていなかったので一応感謝をすると言うことと。それは良かったのだが僕は次の文でまた落胆した。
自分の生まれた国や家族のことを簡単に売るロイアナのことを信用することができない。と。
丁寧な文で書かれてはいたが要約すればそんな内容が書かれていた。
僕はそれ以上陛下に手紙を書くことができなかった。
愛も知らずに、あのような扱いを受けて育って、それでも僕は国や家族を愛さないといけないのかーーーー違う。多分陛下と僕とでは根本的に考え方が、育ち方が、環境が、何もかもが違う。消して分かり合う事は出来ないんだ。彼の言葉にいちいち傷つく必要はない。女性の社会進出などという立派な政策をやってはいるけど、所詮は城の中だけで育って生まれだけで崇められいい生活をして生きてきた人間には僕のような育ち方をした人間がいることを想像すら出来ないのだろう。仕方がないんだ。そうーー仕方がない。
僕はそれから、情報収集をしながらトレーニングに明け暮れた。妖精さん達も定期的にエフテイン王国へと様子を見に行ってくれている。時折、帰ってきてもいいのだぞというエフテイン王国からの手紙も届くいている。
そうこうしているうちに訓練生としての最後の2ヶ月間、僕たち訓練生が週の半分は各自の隊に行きその隊の仕事を教わる期間に入った。ちなみにクローは今だに療養中だ。彼が正気を取り戻した時、エフテイン王国の新たな情報を喋るかもしれないので軍から追い出されずにいるらしい。
今日が初めての特殊部隊の待機室へ行く日だ。ジウ先生の後について皆んなで歩く。第10部隊の人たちから案内され9、8、7とどんどん各自の隊の待機室に入っていく。
最後には僕とジウ先生だけで歩いている状態だ。
それにしても1部隊から10舞台の待機室は結構近いところにあったのに先ほどから先生はかなり長い事歩いている。特殊部隊の待機室だけ遠いんだなぁ。と考えているとやっと先生が立ち止まった。ここだよ、と言われたのは前にルックナー閣下と一緒に来た拷問小屋のすぐ隣に隠れるようにして建っている建物だった。まじか、と思ってるとジウ先生が扉を開けて入っていく。
(あれ? 今までの隊は扉の前までしか案内してなかったのに)
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