第14話 拷問

 目の前には気絶した男が2人。さすがに2人を運ぶのは力も足りないし、どうするかなぁ。とりあえず、路地裏の入り口で人通りも今のところないとはいえ、このままここにいるのは良くないよなぁ。と彼らを縛り上げながら考える。

 とりあえず麻袋と台車を買ってきて寮まで運んでしまおう。フェルトは少なくとも彼らの仲間ではないだろう。前に僕が特殊部隊に入ったことを陛下に会えるのは名誉なことだと喜んでいたし。

 そして、急いで買ってきた麻袋に彼らを詰めて台車に乗せた。彼らのせいで石鹸と雑誌を買い忘れたのでその代車を押したまま買い物をすることにした。


「坊ちゃん、大変そうだね! 何運んでるんだい?」

「ああ、お使いで。新鮮な肉を運んでるんですよ」

「へー。お使いとは偉いね。これ持ってきな!」


 と、まぁあちこちでいろいろもらえてお得な気分になった。レオナが好きそうな甘いお菓子なんかももらえて顔が綻ぶ。この国に来てから、最初は嫌な思いをしたけど今は結構楽しい。まぁ、この麻袋を取り除いてしまえば縛り上げた男2人を運びながら笑っているヤバいやつになってしまうのだが。


 そんなことを考えながら歩いていると寮に着いてしまった。門にはいつも僕が気配を消して通れば全く気づかない門番の他に誰か立っているのが見える。いつも通り気配を消して通り過ぎようとした時その人物が誰であったか思い出した。ライオネル・ルックナー閣下だ! 


「おい、待て」


 密かに通り過ぎようとしたのにさすがにこのレベルの人はごまかせない。


「な、何でしょうか」

「何でしょうかじゃないだろ。訓練生は街に降りたらダメだろ? それに何だその荷物は」

「こ、これは、石鹸とかです」


 なんで閣下がこんなとこに立ってるんだ。もう。


「寮監殿が部屋の見回りをしたら君の姿が見当たらないと言っていたから帰ってくるのを待っていたんだ。それでその麻袋の中身を教えてもらえるか?」

「だから、これは石鹸とか、です」

「とか、なんだ?」

「お菓子とか」

「他には?」

「……おじさんとか」

「おじさん?」


 ああ、ごまかしきれなかった。ルックナー閣下の無機物のような無表情が怖すぎる。


「おじさん2人が怪しい会話をしていたのですが僕が質問しても大事なことを教えていただけなかったので」

「教えてくれないから、連れて帰ってきてどうするつもりだったんだ?」

「……多少、痛めつけて吐かせようかと」

 

 ルックナー閣下から目を逸らしながら告げると、彼は心底呆れたような顔をしたあとフッと吹き出した。


「ロイ……っはは、あくどい思考回路だな。物語の主人公にはなれないタイプの人間だ」

「僕は意外と主人公向きな性格ですよ。かなり努力家です」


 僕がそう言うとルックナー閣下は「自分で言うな」と笑った。


「それで、そのおじさん達はどんな怪しい会話をしていたんだ?」

「まぁ、あまり大きな声では言えないですけど」


 と、前置きをしておじさん達との一連のやり取りとクローの件を大まかに説明した。ルックナー閣下はしばらく考え込んでから口を開いた。


「昨日のクローの件は君の仕業だったのか」

「すみません」


「その荷物の運ぶ場所を俺に提案させてくれないか?」

「……まぁ、いいですけど」

「じゃあ、運びながら君の脱走に対する罰を考えよう」


 どさくさに紛れて逃げるつもりだったのに全然ダメだった。


「でも、もう今日は遅いですし、この荷物は閣下に差し上げますので僕はお暇したいのですが」

「ダメだ」

「……はい」

「心配しなくても明日は休みだろ?」


 笑いながらそう言ったルックナー閣下からは不思議といつもの周りを威圧する空気が感じられなかった。意外とみんなが怖がるほど怖くない人なのかもしれない。と、思った。

 爽やかな笑顔で会話をしながら代車を押して先導しているルックナー閣下を見ながらもしかしたらこっちの顔が素なのかもしれないと思い始めていた時にルックナー閣下が立ち止まった。


「ここだ」


 そういえば随分と他の建物と離れたところに歩いてきたけど、ここはどこだ?

 閣下が扉を開けるとまず地下へと続く階段が目に入った。閣下は代車を傾けてその階段に麻袋を転がした。

 麻袋は中から悲鳴と呻き声を出しながら階段を転げ落ちていく。僕が信じられないと思いながら閣下を見るとこちらを見て困った顔で笑いながら言った。


「下まで運ぶのに持って降りたら大変だろ?」

「そうかもしれませんが…………いえ、閣下も主人公にはなれないタイプの人間ですね」

「意外と俺は主人公向きだぞ? 二重人格だとよく言われる」


 そう笑いながら言った閣下を見て思った。


「それ、主人公向きの性格じゃ無いですよね?」

「そうか? まぁ俺の場合二重人格じゃなくて人見知りなだけなんだけどな」

「それも主人公にはなれなそうですね」


 麻袋の後に続いて僕たちも階段を降りる。お菓子や石鹸はちゃんと手の中にあるのであとで、フェルトやレオナにあげよう。

 下までつくと、麻袋はずいぶんと静かになっていた。階段を降りた先は左右に鉄格子の部屋が3つずつ並んでいる。中にある器具から察するに拷問部屋というところだろう。昔読んだ本に載っていた道具もある。


「さあ、じゃあ始めるか」

「一応何を始めようとしているのか聞いてもいいですか」

「もちろん、拷問だ。部屋見たらわかるだろ」

「そうだろうとは思いましたが、閣下の笑顔が拷問を始める人の顔に見えなかったので」


 閣下はそれには答えずに、テキパキと麻袋のおじさん達を取り出して設置していく。



 すべてが終わっておじさん達が知っている情報のおそらく全部を吐いた時、僕もその拷問の凄まじさに嘔吐した。ルックナー閣下は爽やか笑顔からいつもの無表情に戻っていた。

 おじさん達が吐いた情報によると、陰謀を企てた国は、僕のいた国、エフテイン王国だった。さらにおじさん達は首謀者や協力者の名前を10人ほど吐いた。



「君の脱走についての罰もこれで終わりだ」

「え?」

「何やら嘔吐していたようだし、随分と精神的に罰になったようだからな」

 

 またもにこやかに笑って言った閣下を見て、不安な気持ちになる。


「もしかして、閣下は人をいじめることで快感を覚えるタイプの人間ですか」


 と、失礼な質問をすると「そんな変態なわけないだろ」と笑いながら答えたが、絶対に嘘だと思った。

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