第13話 密会

夜が明け本日、クローは神経衰弱で発見された。支離滅裂なことを叫んだりしているらしい。

 しばらく寮で安静にして療養したのち、治る見込みがなければ軍を退くことになるそうだ。


 その日の授業を終えてフェルトとの約束通り僕は街に降りた。

 王女時代にも街に降りたことはなかったので、毎回とても楽しい。屋台からする美味しそうな匂いに釣られそうになるけど、最初にお使いを済ませよう。そう思って店に向かっていると王宮で見たことがある顔が路地裏の入り口にいるのが見えた。フードをかぶった男とこそこそと何か話している様子だ。

 いつもの癖で気配を消して近づいてこっそりと耳を立てる。


「クローはもう使えない」

「あいつは最初からろくな情報を持ってこなかったけどな」

「それでも特殊部隊に入ればいい情報が入る予定だったのだが」

「でもああなってしまったらもうダメだ」

「バカで扱いやすかったんだがね」

「ロイを仲間にできないもんかな」

「クローがああなったのは100パー、ロイの仕業だぞ」

「そこをどうにかつつければ……」


 そこまで聞いて僕は彼らに話しかけた。


「僕に用ですか? おじさんたち」

「「わっ!!」」

「昼間からあやしいなぁ」

「ロ、ロイ!! 訓練生は街に降りたらダメだろう!」

「あれ? なんで僕の名前知ってるんだろう? 僕はおじさんたちにあったことないですけど」

「や、やえっとロイ君が優秀と聞いてね、遠くから顔を見たことがあるんだ」

「そうなんですね、ロッセル卿、スウェリー卿。僕もあなた達を見たことがあります。その時はクローと話していたっけなぁ」

「な、見られていたのか! まぁいい。ロイ君、仲間にならないかね」


 そんなところは見たことないけど鎌をかけてみたらあっさり引っかかった。彼らの名前は城などで分かっていたが、今の王に変わってから立場が弱くなったらしかった。


「へー、仲間とは何のですか?」

「それは、仲間になってもらってから説明するよ」

「そう言われましても何をする仲間か聞かないと仲間になるかどうか決められないじゃないですか」

「まぁそうだな。どうせ聞かれてしまったのだし」


 ロッセル卿がそう言うとスウェリー卿と目配せして僕の背後に回った。万が一仲間にならないという選択肢をしたら殺すためだろう。


「では、話そう。この国の王について。彼は変わり者の王だ。この国では女性に地位はない。でもそれを変えようとしたり王に忠誠を誓っている者の不正を暴いたりね」

「そうそう。他にもいろいろ。この国は悪い方向に変わろうとしている。僕たちは無力な新王を助けてあげようとしているんだ」

「聞いている限り悪い方向に変わろうとしているようには思えないですけど。助ける……ですか。どうやって?」

「この国、いや、皇帝陛下にとって都合の悪いことを調べて他国に渡すんだ。あるいは嘘の悪い噂を市井に流す」

「それでどうして皇帝陛下が救われるんです?」

「国の王というのは大変な仕事だ。そこから退かせてあげようという話だよ。他国との戦争を起こして負ければ処刑によってその先の憂いから救うことができるだろう? 戦勝してしまっても市井に流れる今の陛下の悪い噂で暴動でも起こしてあげればいい」

「それで皇帝陛下は救われるんですか?」

「そうだよ! 仲間になってくれるかい? すべてが終われば他国がそれなりの地位を約束してくれているんだよ」

「お断りします。僕は皇帝陛下のために何かするってのは無理なんで」

「な、なんでだ!」

「皇帝陛下に個人的に好意を持てないだけです」

「じゃ、じゃあ、私たちの仲間になった方がいい!」

「え、さっきあなた方は陛下をお救いしたいと言っていたばかりじゃないですか」

 後ろにいるスウェリー卿がジリっと動く気配がする。僕は瞬時に目の前にいるロッセル卿の背後に回って彼の腰から抜き取った剣をロッセル卿を背後から抱きしめる形で首に当てる。


「あの、一つお聞きしたいんですが」

「ひっ!!」


 僕が剣を喉に押し付けながら質問しようとするけどロッセル卿は怯えすぎていて声が出せないようだ。仕方ないので未だ動けないでいるスウェリー卿に目を向ける。


「な、なんだ」


 スウェリー卿がやっとの思いで聞き返してきたので質問する。


「他国というのはどこですか? あなた方が主犯じゃないですよね。他に仲間は? あぁ1つじゃなかったですね質問」

「そ、れは答えられない」

「どちらの質問にですか? 両方?」

「両方だ」

「じゃあ、仕方ないですね」


 そう言うと、腕の中のロッセル卿がほっと体の力を抜いたのが分かった。目の前にいるスウェリー卿もホッとしたが目に少しバカにした感情が入っているのがわかる。所詮子供とでも思っているのだろう。

 ロッセル卿の首に押し付けている剣にさらに力を込める。血が滲み始めてロッセル卿は急に暴れ出した。


「あぁ、暴れないでください。痛い思いをしながら死にたくないでしょう?」

「ひっ!! あ、頭おかしいんじゃないか!?」


 僕は無視してロッセル卿の首から剣をどかし、代わりに腕を回して首を締め上げる。うなってもがいていたがカクンと意識を失った。

 それを目の前で茫然とみていたスウェリー卿が逃げ出そうとするので回り込んで剣の柄を鳩尾に思いっきり打ち込んだ。

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