第9話 いきなりピンチ? 

 ここでは、朝昼晩の3食とも寮の食堂でご飯が出る。人の作ったご飯は随分と久しぶりに食べた気がしていつもより美味しく感じた。黙々と食べていると綺麗な女性に話しかけられた。栗色の瞳、長い赤い髪を左右で編み込んで後ろでひとまとめにしたスラリとした女性だ。


「隣いいかしら?」

「あ、うん! どうぞどうぞ」

「私は、レオナよ。あなたは?」

「僕は、ロイだよ。よろしく」

「あなた、先ほどあちらで噂になってたけど特殊部隊に入隊したんですって?」

「そうなんだよね。よく知らなかったんだけど」

「私と仲良くしましょう。私、ルックナー閣下に一目惚れしたの。今度紹介してほしいわ」

「えーと、紹介と言われても僕も試験でしか見たことないんだけど」

「それは分かっているわ。だから今後6ヶ月が終わってそれぞれの隊に正式に入隊した後、頃合いをみて紹介して欲しいの」

「んー。約束はできないけど……わかった」

「ありがとう! 嬉しい!」


 そんなこんなで、多分初めて誰かと食事を取ったと言う思い出が勢いよく終わった。



 さっそく今日から授業が始まる。まずはこの国の歴史とか戦略とかの座学から始まるらしい。入隊試験で合格したのは22名で各部隊で2名ずつほど受かったらしい。指定された教室に向かうと全員同じ部屋に集まっていた。僕はフェルトと一緒に窓際の一番後ろの席に座った。


「全員集まったようだね。私は、君たちを半年間教えることになったジウ・ブルートだよ。まぁ気軽に先生とか呼んで欲しいな」


 そう挨拶した人は、茶色の髪に茶色の瞳の一般的な色の持ち主だが美形なお兄さんだ。微笑みを絶やさない表情がとても優しそうで胡散臭さがある。


「私は、どちらかと言うと魔術の方が得意なんだけど剣もまぁ君たちに教えるくらいは出来るから安心してね。じゃあまずは自己紹介をしてもらおうかな? 君からどうぞ」


 教室前方の廊下側にいた青年が指名されて自己紹介を始めていく。

 途中、衝撃的なことが起こった。レオナが居たのだ。考えてみれば訓練生の寮なのだから女性がいることがおかしいのだから、彼女が男性であると早くに気づくべきだったのだ。レオナはレオンと名乗った。その後びっくりしている間にどんどんと順番が来てフェルトが僕より先に立ち上がった。


「フェルトです。第1部隊に入隊しました。よろしくお願いします!」


 フェルトが第1部隊と言った瞬間にみんなの目が憧れの色に変わった。

 残るは僕だけなので立ち上がって自己紹介をする。


「ロイです。謎ぶ……あ、いや特殊部隊に入隊しました。よろしくお願いします」


 間違えそうになった僕を見てフェルトが肩を震わせてる。ふと先生を見ると目を細めていてさっきまでの微笑みが消えていた。


(謎部隊って言いそうになったこと怒ってるのかな?)


 だけど、その表情も一瞬のことで最初の微笑みに戻っていた。


「じゃあ、最後まで自己紹介が終わったことだし、君たちの今の段階の筋肉を見せてもらおうかな? みんな」


 そこで一回言葉を切って僕の方をちらりと見た気がした。


「上半身裸になってもらえる?」


 先生はニッコリ笑ってそう告げた。

 もしかして、僕が女だとバレたのかもしれない。でも、まさか、でも先生も半信半疑で鎌をかけてるんだ。僕が女なら上半身裸にはなれないだろうと踏んでいる。

 だけど、僕はここにくる前に妖精さん達に頼んで胸を変えてもらったから上半身なら大丈夫だ。


 僕は他のみんなが脱ぎ始めるのを見て覚悟を決めて服を脱いだ。今まで女性として生きてきたので抵抗がないと言えば嘘になるけど、背に腹は変えられない。

 先生は前の方から順番に、ふむふむ言いながらみんなを見て回っていた。

 僕のところまで回ってくると、どこか訝しげな顔で観察した後教卓のところに戻って行った。

 ちなみに、おそらくレオナの胸筋が一番凄かった。


「なるほどね。みんな圧倒的に筋肉が足りてないと思うよ。とりあえずそれぞれにあったメニューを考えてくるからそれに従って訓練以外の時間もトレーニングに励むように」


 よかった。とりあえずはセーフ。だよね? こんなに早くバレてしまっては生きる術がなくなってしまう。


 そのあとは普通に歴史や戦術などの眠くなる授業を受けて、実際寝た。1人で読書したり勉強したりすることには慣れていたけど、人に教えてもらうと言うことはこんなに眠たいものなのか。

 とにかく、座学は自己紹介と筋肉検査のあとのほとんどの記憶がない。


 そのあと午後からは、試験の時にも入った第一訓練場で剣術の授業を受けた。フェルト以外とも何人かと組んで練習したけど、圧倒的に力が足りないことを実感した。鍛錬で追いつけるものかは分からないけど、とにかく人より多く鍛錬しないと僕だけ戦力外通告を受けてしまう。

 午後の授業の終わりを告げる鐘がなった時にはヘロヘロになっていた。

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