第7話 入隊試験
そして、私……いや僕はくすねてきた剣を毎日振った。妖精さん達が出してくれた動く敵に見立てた人形を使って我ながらどんどん上達した。
上達するたびに人形の動きを早くしたり複雑にしたりして妖精さん達は一生懸命協力してくれた。これから入るのは男の世界だ。周りより努力しなければならない。
走り込みもしたし、筋トレもした。
食事もタンパク質を中心に盗る(誤字じゃないよ)ようにした。
もしもの時のために妖精さん達に教わって聖女の力を使う練習もした。聖女の力は命を削って使うため使い所を選んでいかないといけないらしい。今までの聖女も短命だったと聞いた。母も私たちが3歳の時に亡くなったし。
入隊試験までの1ヶ月で僕はあらゆる面で成長した。
体力がついたし剣も上達した。
気配を消して食料を盗むのも上達した。
そしてこれからの生活に何よりも嬉しい成長だったのが身長だ。前より少しだけ背が高くなって、一般的な女性より少し高いくらいの背だったのが背が低めの男性くらいになったのだ。
『すごいよ、ロイアナ、本当に男らしくなったね』
『かっこいい』
盗んできた男性服を着こなした僕を妖精達が褒めてくれる。
「ありがとう、妖精さん達。じゃあ行ってくるよ」
『頑張って! 邪魔にならないところで見てるからね!』
『応援してるよ!』
口々に言う妖精達の方を振り返りながら大きく手を振る。
妖精達がいるとふとした時、話しかけてしまいそうだったので別行動をお願いした。しばらく歩いて走り込みをしている時に見つけた抜け穴から、一度敷地の外に出た。
試験はお城の敷地の中で行われるらしいけど、中から行ったら変に思われるかもしれないから念には念を入れて一度外に出て正面から行くのだ。
お城の前に着くとチラシを手にした若者達が並んでいる行列があった。当たり前だけど男しかいない。僕もその列に並ぶ。
「はじめまして! お互いがんばろうな」
後ろに並んでいるやつが話しかけてきた。黒い髪に青い瞳の青年だ。
「ああ、そうだね」
「名前、なんて言うの? 俺はフェルト」
「ロイだよ、よろしくフェルト」
僕は本名のロイアナからとってロイと名乗った。1月前には決めていた名前だ。
「ロイはそのチラシどうやって手に入れたんだ?」
「ん? どうやってって?」
「俺は、街で祭りがあってそれの景品だったんだよ。入隊試験を平民が受けられるのなんてこの先一生ない経験だろ?」
「え、そんなに価値あるものだったの? 僕は拾ったんだ」
「えー! このチラシ落とすやついるのかよ! まぁそんなおっちょこちょいなやつはどっちみち入隊できなかったかもな」
「はは、そうだね」
まぁ嘘は言ってないからいいよね。王宮で『拾った』わけだし。
「どんな試験が行われるんだろう」
「え? それも知らねーの? っつても俺もそこまで詳しいわけじゃないんだけど、剣の試験はもちろん魔力の試験もあるらしいぞ」
「え! 魔力?」
「ああ、平民に魔力あるやつなんて、そーいないけど万が一ってのがあるから検査するらしい」
「へー。魔力……。魔力あると何ができるの?」
「そりゃ、人それぞれだ。マッチみたいな小さな火を付けられるだけの奴もいるし、山を切り崩すほどの斬撃を刀に載せらるような魔力の持ち主もいると聞いた」
「へーそりゃすごいね。でも僕には関係ない話だな」
聖女だし。と言う言葉は飲み込んだけどフェルトは別の意味に捉えたらしい。
「まだ分からないだろ? 諦めんなって」
フェルトの謎の励ましに僕は曖昧に笑ってごまかすことにした。
「次! お前まで中に入れ!」
「お、僕までみたいだ。お互い合格して会えることを願ってるよ」
僕は振り向きざまにフェルトに伝えると、そのまま先導する軍服の人について歩く。10人ほど一緒に歩いている少年たちがいる。剣は1ヶ月しか練習してないとはいえ、他のみんなの体つきを見る限りそんなに変わらなそうなので安心だ。そう思っていると先導していた軍人が止まった。どうやら目的地に着いたみたいだ。第一訓練場と書かれた看板の前に、凄まじいオーラを纏った若干クセのあるダークシルバーの髪を全て後ろに流した明るいグレーの瞳の男がこちらを見据えて立っていた。顔が整ったお面でも付けているかのように無表情を崩さない。
「お前達を相手にするのは俺だ。俺に勝てば俺の隊への入隊を認める」
男がそう言うと、ここまで案内してくれた軍人が捕捉的に説明してくれる。
「この方は軍の総指揮官の補佐を務めている、ライオネル・ルックナー閣下だ。皆も知っていると思うが我が国の軍は10個の隊に分けられていて、それぞれ仕事内容が違う。ルックナー閣下の隊は、その10個の隊のどれでもない陛下直轄の特殊な隊である。これより、ルックナー閣下に負けたものから1部隊の試験に、そこで負ければ2部隊の試験にどんどん向かってもらう。10部隊の試験でも認められなければ、残念だが帰ってもらうことになる!」
結構、チャンスがあるんだな。全部で11回のチャンスがあるなんて。でもそれによりどんどん体力もなくなっていくわけだから、他のみんなより体力のない僕はできるだけ早い段階で合格しないと。
前の奴らがどんどん倒されて、1部隊の試験会場に向かっていき最後に僕の番になった。正直、前に最低でも9人戦った向こうの体力は見る限り全然落ちていない。息切れひとつしていない相手に僕が勝てる気はしない。
「どこからでもかかってきて良いぞ」
そう言われたので僕は仕方なく考えていた作戦を実行する。僕の特技は気配を消すこと。正直目の前に相手がいるのに気配を消すって言うのも無理な話だけど、僕はできるだけ気配を消してゆっくり、ゆっくり歩いた。動きに緩急をつけて徐々に閣下に近づいていく。最後は素早く! 閣下の後ろに回り込み首に模擬刀を当てる。
カンっ!!
素早く身を翻した閣下に止められてしまった。そのまま、剣を払われて模擬刀が遠くの地面に突き刺さった。
(まぁ、こんな人に勝てるなんてはなから思っていない)
僕は、地面に突き刺さった模擬刀の近くまで来ると、力一杯抜き取って閣下を振り返り手合わせへのお礼を伝えて1部隊試験会場への道へと向かおうとした……のだが。
「あの、手を離していただけませんか」
閣下がいつの間にか近くに来て僕の腕を掴んでいたのだ。
「お前は合格だ。俺の隊へこい」
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