第6話 入隊希望のチラシ


 朝起きて、とりあえず食料調達を兼ねた情報収集に出かけた。

 相変わらず王宮の中は騒がしかったけど私が嫁いできた事なんて誰も話題にも出していない。


(まぁ皇帝が亡くなったのだから当たり前よね)


 私は気配を消しながら至る所で情報収集をした。この国についてあまり知ってることが少ない。エフテイン王国にいたときに暇だったので人の噂話を聞くか本をずっと読んでいたから、結構いろんなことを知っていると思っていたけど、この国についてはあまり読んだ記憶がないのだ。


「そういえば、聞いたか? 西の塔の幽霊の話」

「え? なになに?」

「それがさ、西の塔って見回りの兵もあまり行かないところらしいんだけどそこの入り口のところ辺りで女の独り言が聞こえるって噂だぜ」

「まじかよ、こえー」


 多分それ私。


「でもさ、西塔って俺行ったことない」

「バカお前あそこは、立ち入り禁止だから行ったことなくて当たり前だろ」

「へー、なんで禁止なんだろうな」

「なんか昔は問題のある王族を幽閉するのに使ってたとか何とかって噂があったけど」

「じゃあ、その幽霊ってのもこっそり王族が幽閉されてんじゃね?」


 なるほど、幽閉ね。正解!


 (何か仕事を見つける情報が見つかればいいんだけどな)


 そうだ、ここの図書室の本こっそり借りに行こう。

 この国の歴史とか職業事情とか、それと恋愛小説も意外と参考になるかもしれない。


 図書室を探して1時間。やっと見つけた。

 図書室はキッチンと違っていい匂いがしないから探しづらい。うろうろしたおかげで結構この王宮の地図が頭に入ってしまった。


 私みたいな部外者がこんなにうろちょろ歩き回ってるのにバレないって王宮の警備大丈夫かよ! って思っていたけど、意外と気配を消して警備している人はいるみたいだった。私にはバレバレな気配の消し方だし、私がいることに気づけない時点でどうかとは思ったけど。

 気配を消して警備している騎士のすぐ横で気配を消してただずむというチキンレース的なことをして遊ぶこともできた。


 部屋に戻ってきて、勝手に借りてきた本を読んでみた。

 それで分かった事はこの国は女性が1人で働いて生計を立てることが難しい国らしいという事だ。それはエフテイン王国もそうだったけど、それ以上にコールライト帝国では難しいらしい。

 読んでみた恋愛小説を見ても『俺にあなたの今後の生活費を出させてください』だの『貴女にいつも家で帰りを待っていて欲しい』だのみたいなセリフが結構あった。

 エフテイン王国と違うのは、市井の人たちも女性は外で働くのがかなり難しいと言うことだ。エフテイン王国の平民は男女関係なく働いていた。


「どうしようかなー」


『どうしたの?』

『情報収集うまく行かなかったの?』


「ううん、情報収集はとてもうまくいったの、けど、この国は女性が外で働くにはあまりにも難しい国みたいで」


『働かなくていいよ』

『僕たちが何とかするし!』

『それに食料なら調達できるんだし!』


「それがね、王宮内にチラシが置いてあったの、これ」


『何のチラシ?』

『なに? なに?』


ーー兵士募集!

このチラシを持ってくれば入隊試験を受けられます!

一生食いっぱぐれることがない仕事!

有望な若者を待ってます!



『これってさ、さっきの話を聞く限り男しかなれないんじゃないの?』


 妖精達が訝しげな顔でこちらを見てくるので私はとびっきりの笑顔で答える。


「そんなことはどこにも書いてないわ! でも……そうね兵士になるなら髪は邪魔になるでしょうから、切ります。そしてこの服装じゃあ、動きにくいから……これ」


 そう言ってての中にある服を妖精達に見せる。


『ど、どうしたの? その服』

 妖精達は私の本気度が伝わったのか顔を引きつらせながら聞いてくる。


「もちろん、盗んできたわ。男性服の方が動きやすいからこれを着るのよ、男性であると騙そうとしているわけじゃないわ」


 ニコりと微笑みながらそう伝えると、妖精達はそれぞれ顔を見合わせて困った顔をしている。


「そこで、妖精さん達にお願いがあるんだけど……」


『な! なに?』

『何でも言って!』

『ロイアナがお願いしてくれるなんて!』


「胸を、男の人の胸みたいに変えて欲しいの。できる?」


『出来ないことはないけど』

『妖精の力は完璧じゃないから、もしかしたら戻すことが出来なくなるかもしれない』

『それにどこか1つしか変えられないんだ。ロイアナの背中にある虐待の痕を消すことができなくなっちゃうよ』


 心配そうに、申し訳なさそうに告げてくる妖精達の顔を見ながら私はもうすでに決意していた。それでもいい。皇帝陛下と会うことも無いのだから、今後見せる相手なんてできない。どうせ、性別を偽って入隊して、性別と身元がわかれば私なんて処刑されるんでしょうから。バレないように最善を尽くそう。とにかく、こんな何もないところでこのまま一生を過ごすなんて考えたくもない。


「大丈夫。お願い」


 すると私の頭上で妖精達がくるくると回ってキラキラした光を浴びせてくれた。

 妖精達は私を変えてくれた。


「ありがとう! 妖精さん達!」


『ロイアナ、喜んでる!』

『良かった』


「とりあえず、明日から剣を練習する。口調も変えないと。入隊試験は1ヶ月後だ」


『がんばれー! ロイアナ!』

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