第5話 吹っ切れた

 とりあえず、暗くならないうちに食糧調達に行かなくては!

 ついでに王宮の探検でもしよう。よし、そうしよう。


『楽しそうだね! ロイアナ!』

『なんで? なんで?』

『扱いひどいのに』


「なんでだろう。もう愛されなくてもいいやーって思ったら吹っ切れたのかも」


 不満げな妖精達にそう告げて、初めて鬱々とした気持ちがないことに気づいた。

「今までの生活だって流石に食料はあったけど、まさかあれ以下の生活になるなんて思わなかったわ。でも、良かったのかも。私、マナーやダンスを教えられていないから本で読んだだけの知識じゃ不安だったし」




 さっそく地味な服に着替えて気配を消しながら王宮に向かった。

 良い匂いがしてるのですぐにキッチンの場所がわかった。道すがら使用人達の話が聞こえてくる。

「陛下が昨日崩御されたから大忙しだよ」

「俺たちの仕事じゃあ、あんまり実感ないけど今日は城が騒がしいよ」

「今日の午前中のうちに戴冠式が行われたらしい」

「んじゃあ、その前に葬儀はもう終わったのか」

「ああ、今は隣国とのいざこざとかあるからつけいられないように、早くしたんだろう」



(え、皇帝陛下お亡くなりになったの!?)

 

  私は気配を消しながら、いそいでキッチンから食べ物をくすねて離宮に帰ってきた。

 とても食べる気にはなれないけど、何となくで調理しながら考える。


(あぁ、ここまで連れてきた執事が『陛下』からの手紙と言っていたわ。崩御されてからすぐに戴冠式をやったから、もう皇帝陛下になられてたのね)


『どうしたの?』


 ボーっと考えていたら妖精達から心配そうに覗き込まれていた。


「あ、ええと、皇帝陛下が崩御されたらしいの」


『えー! そうなの!?』

『じゃあロイアナは皇帝妃じゃない』


「まぁそうだけど、この手紙の様子じゃあ私は旦那になる人と一生会わないかもしれないわ」


 私が料理する手を止めて手紙を広げながらそういうと、妖精達は手紙を覗き込んできた。


『なんかひどくない?』

『僕、この人嫌いだ』

『私もー』


「でも自由にして良いように書かれているし、自由にすることにするわ」


『なにするのー?』

『遊ぶ?』


「遊びたいのは山々だけど、とにかくここには使用人もいないし食事もない。人を雇おうにも王宮には来るなと言われているしお金もないから何にもできないわ」


 食事を作るのを再開しながら考える。鍋をぐるぐる回して味をつけて出来上がった何かよく分からない食べ物を皿に盛り付けて、すぐ脇のテーブルまで運んで席についた。


「んっ、意外と美味しくできたみたい。これが何ていう食べ物かは分からないけど」


 貴族のマナーも本で読んで一応マスターはしているけど、こんなところに妖精さん達しかいないし何にも気にせずに頬張った。

 

『僕それ、なんて料理か知ってるよ!』


「へー、何ていう食べ物なの?」


『それはね、肉じゃが!』

『人間の食べ物は食べられないから味はわからないけどねー』


「妖精さん達は物知りなのね」


『昔の聖女が教えてくれたの!』

『肉とじゃがいもが入ってたらそれはもう肉じゃがよって言ってたよ』


「そうなのね、じゃあこれは紛れもなく肉じゃがね」


 妖精達が満足そうにうなずいた。


「とにかく、食料調達は余裕で行けるけどここで何にもせずに誰からも相手にされずに死んでいくのだけはまっぴらごめんだわ」


『どうする? どうする?』


「どこかで、働く! そして今までの私じゃない、違う自分に生まれ変わって生きていく」


『どこで? どこで?』


「それは情報収集して決めるわ、とりあえず今日は寝て、明日から活動開始よ!」




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