第3話 妹との別れ
頬が何かを伝う感覚を不思議に思い荷物をまとめている手を休めて頬に触れた。
「……っふ……は、はは。私、泣いてるの?」
荷物にポタポタと滴が落ちる。
愛されていないのなんて分かりきっていたことなのに。
『殺す?』
「え?」
急に妖精に話しかけられてびっくりした。
『王様も、あの義理の母親も、王子も、エリザベスも』
『みーんな、殺そうか?』
妖精達が真面目な顔で聞いてくるから、私は思いがけず涙を引っ込めて笑ってしまった。
『なに笑ってるの』
『僕たち真面目に言ってるんだよ!』
「そうね、ありがとう。あなた達が私のためにそんなに怒ってくれるから、嬉しくて」
『私たちは、ロイアナのためなら何だってするよ!』
『そうだよ! もちろん、コールライト帝国にも付いていくからね!』
『僕たちはずーっとロイアナと一緒だよ!』
「ありがとう、妖精さん達。でもね、もしかしたらコールライト帝国の皇帝陛下がとても良いお方かもしれないでしょう? ここにいるよりも幸せになれるかもしれないわ。だから、ここで愛されなかったのはとても悲しいけれど、ほんの少しだけ楽しみ……なような気がするわ。ここよりも寂しい場所なんてそうそう無いでしょう?」
『寂しい? 僕たちいるのに』
「そうよね、妖精さん達がいてくれたおかげで私、生きてこれた。ありがとう」
そういうと妖精達は嬉しそうに飛び回った。
「ロイアナ! コールライト帝国に嫁ぐんだって?」
少ない荷物をまとめていると、ドアを勢いよく開けて妹が入ってきた。
「エリザベス……」
「ぷぷぷ! あそこの皇太子、女嫌いで有名だよぅ! ぜーったいお飾り妃になるよっ!」
「エリザベス、珍しいわね。あなたがここに来るなんて」
「私だってこーんな寂しいところには来たく無いけどー。ロイアナが勘違いしないように忠告してあげるためにわざわざ来てあげたんだよっ!」
「勘違い?」
「そうっ! 皇太子殿下は本当は、私と結婚したかったの! だけど、私って聖女だからこの国にいなきゃいけないじゃない? だからっ、身代わりにロイアナを送りつけるんだよぅ! ほんと私ってば罪作りな女ぁ」
「貴女さっき、皇太子殿下は女嫌いって言ってなかった? なんで貴女と結婚したがるの」
「知らないけど、私が可愛いからじゃんっ? 女嫌いの皇子をも惚れさせる私の可愛さすごいっ! 他国は聖女なんて御伽噺だと思ってるしー。自分の可愛さが恐ろしいわぁ」
「貴女が聖女だと決まったわけじゃ無いわ」
「えっ? えっ? えっ? もしかしてロイアナが聖女になれるかもとか思ってるー? 無理無理無理。笑わせないでよっ、あはは、私に決まってるじゃん! まだ、発動はしてないけど、分かりきったことだよねー! だぁって、どんな力だって妖精だって愛されるのは私なんだから」
「……そう」
ここまで思い込めるのはある意味天才ね。まぁ育てた周りの大人が悪いとは思うけど、もう判断がつく大人なわけだからエリザベスにも責任があるわよね。
「それにしても、荷物全然ないんだねっ」
「ええ。一つのトランクで収まってしまったわ」
「えー? 何その言い方! 私たちがロイアナに何もあげてないみたいじゃんっ。そんな言い方したことお父様達に言いつけちゃうよ?」
「ふふ。貴女はあまりここには来なかったけど、たまに来ては私から少ない大切なものを奪って、そして、無いこと無いこと陛下や義母に報告しては私をいじめてくれていたわね。でもね、エリザベス……もう、陛下に言いつけても意味がないのよ。明日、私はここを出てくのだから」
「あんたなんて、だーれも相手にしてくれないよっ!」
「そうかもしれないわね。でもね……ここよりはマシ」
私は、明日、この国を捨てる。家族を捨てる。
王や義母や兄や妹は・・・・私を捨てた。だから私も彼女達と心を捨てよう。
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