第三話―ハリー・ホワイト

――1940年2月26日 8時45分(東部標準時)

  アメリカ合衆国 ニューヨーク市 ブルックリン区


 その日、ブルックリン区のアパルトマンに数人の厳つい体つきの男が訪ねてきた。

 とある部屋の呼び鈴が押され、続いて荒々しくノックをする。

 その中でもひときわ眉間にしわを寄せた白人の男は、中折れ帽を取るとこう切り出した。

「ハリー・ホワイトだな。連邦捜査局FBIだ。貴方にスパイ容疑で逮捕状が出ている」

 フロックコートを着た陰気な白人の男は、そう言って書状を見せた。彼の後ろには何人もの捜査員が控えており、銃を構えている者もいた。

 どうあがいても、逃走は不可能に見えた。

 ホワイトは天を仰ぎながら呟く。

大統領フランクリンが死ぬのが早すぎる。せめて、1942年まで生きていれば…目的が達せられたものを」

 両手を手錠で拘束されたホワイトは観念したように顔を伏せた。

 この前年の10月、フランクリン・ルーズベルトは昼食前に脳卒中で倒れ、不帰の客となっていた。

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