7――重い鑓(やり)

鋭い朱鑓の突きを、利親は絡め取るようにいなす。


既に数合やりをかわしただけだが、既に利親は息があがりはじめていた。


――何と重い鑓なのだ。それを馬上で片手で振るうとは。


左手で手綱を握り、悍馬を自在に操りながら鑓をしごく。


容易くやってのけているように見えるが、そのどちらもが手抜かりなく冴えている。


叩きつけられた鑓の衝撃で右腕にはまだ痺れが残る。


利親は島津の若者の膂力と技量を悟る。


どれほどの鍛錬を積めば、この若さでその境地に立てるのか。


将としての器量、個としての武、そのどちらもが利親と互角か、あるいは上回る。


――ましてや、敵中突破の疲労が残る老体では破れぬ相手か


「来い、謀反人」


 自分自身を叱咤するように、利親は吠える。


「米洲島津家頭領、参る!」


 利親に対し、武尚は稽古をつけてもらうのが嬉しくてたまらない門弟のような笑顔で応える。


刹那、数合の鑓が交わされる。


 そして、ついには利親の鑓は武尚の大袖を破壊し、武尚の鑓は利親の胴を貫き、心の臓を抉っていた。


#100文字の架空戦記

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