8――日向須頓(ひゅうがすとん)城

前田騎馬隊の壊滅により、豊臣幕府軍の中核は崩壊した。


「これより我ら筒井家は、島津家に降る!そして、朝敵豊臣を討つ!」


 先代會啓かいけいから筒井家を継承したばかりの尼僧姿(といっても剃髪はしておらず、短髪である)の女武者、筒井善啓つついぜんけいはしたり顔でそう宣言する。


 まだ元服を果たしたばかりというのに、先代譲りの食わせ物という評判は伊達ではない。


 女ながら当主に善啓が就いたのは、會啓に息子がついぞ生まれず、嫁を取らせようにも猛者ぞろいの三姉妹に似合う婿が見つからなかったための苦肉の策ではあった。


が、筒井家は不思議なことに女当主の下で妙な団結力を発揮している。


米洲アメリカ日ノ本人ひのもとびとの中でもまれな、不思議な家と言えよう。


筒井家の裏切りは、毛利長康が幕府方に仕掛けていた調略の中でも、最大級の成果であった。


「姉者、幕府の連中すでに士気を阻喪しておりますな」


 女猪武者と評判の高い筒井楠慶なんけいが、種子島を担ぎながらつまらなさそうに言う。


「島津の中務大輔殿は戦上手ですからね。毛利殿は調略の上手。幕府方はもうしまいでしょうね」


線が細いが眼光は鋭い筒井家の頭脳、筒井眠啓みんけいが怜悧な微笑を浮かべる。


彼ら人呼んで、筒井家三姉妹。


厳密に言えば三人とも母は違うが、固い結束を誇る。


「さて、武尚への義理は果たした。あとは我ら筒井家に婿として迎えるだけじゃな」



種子島、大筒を多数握っていた筒井家の叛乱は、ただでさえ崩壊傾向にあった


幕府方の将兵の士気をさらに低下させた。


毛利の調略によって、あからさまに戦いの意思を見せず戦場から離脱し、弁当を広げて食い始めた佐々家などはその筆頭であった。


大きな堀以外はたいした防御施設を持たず、所詮は平城に過ぎぬ日向須頓ひゅうすとん城は包囲され、風前の灯火であった。


「徹底的に砲火を集中し、城門ば破れ。降っ敵は必ず助命じゃ」


馬上の武尚はそう厳命した。


 #100文字の架空戦記

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