5――砲煙弾雨

砲煙弾雨の中を、利親は愛馬と共に駆けた。


未だ騎馬の機動力について来られる速度の兵器が登場しない時代ではある。


 しかし、甲冑を身にまとっているとはいえ種子島や大筒の砲弾をまともに食らえばただでは済まない。


 騎兵の輝きが失われる兆しは、確実に訪れ始めていた。


 前田家の兵たちは、横陣で正確に射撃を繰り返す島津兵の前に次々とたおれていく。


 幕府兵の殆どが斃れゆく中、甲冑に弾丸を受けながらも奇跡的に僅かな供廻衆を引き連れ、島津騎兵の前へと躍り出る。

 

 利親は南無八幡大菩薩と密かに唱え、次いで叫ぶ。


「我は幕府直臣前田利親なり!島津が謀反人に一騎打ちを所望す!」


 居並ぶ将兵は、とうに失われたはずの戦場の雅言葉に呆気にとられる。


#100文字の架空戦記

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