4――コミュニスト・ゲートの選択


「また失敗か。ソビエト連邦の成立を3年も早めたんだぞ」

 ロシア人青年はかぶりを振って立ち上がる。

 彼の名はワシーリィ・イワノビッチ。若くして博士号を取った、天才的な物理学者だった。交通事故を契機に、彼は自分自身がヨシフ・スターリンの生まれ変わりとしての記憶を持っていることに気がつく。

 彼は今のロシアが堕落した資本主義国家になっていることに驚愕し、憎悪した。

「必ずや、ソビエト連邦の存続を。堕落したチャイナなどではなくこのロシアに、2021年の世界に再び共産主義国家を蘇らせるのだ」

 その切り札となるのが、日本の秋葉原で偶然入手したタイムトラベルを可能とするマシンだった。正確には自分の意識だけを過去に飛ばすのだが。

 革命前夜へのタイムトラベルは数十回に及んでいた。

「やはり、あの東洋の島国が邪魔だ。いまいましい。戦争をもってしても、まず満洲占領を成し遂げて不凍港を手に入れるのだ」

彼の思考は数十回の過酷なタイムトラベルで破綻し、精神も崩壊しつつあった。それでも彼は試みを止めることは無い。

 共産主義こそが世界を統べるに足る思想なのだから。

「飛べよーっ!」

 マシン端末を握りしめながら、彼は遙か過去へと自らの意識を送り込んだ。





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