5――朝鮮日本戦争

――1950年10月2日 北九州市


 北九州市の市街地は騒然としていた。

 朝鮮戦争で半島を征服し、大韓民国と国連軍を半島から叩きだした北朝鮮は、余勢を駆って博多や北九州市への爆撃を行おうとしていた。

 彼らにしてみれば憎き倭奴ウェノムと、祖国の分断を企んだ――少なくとも朝鮮労働党の公式見解ではそうなっている――米帝野郎どもに対する復讐戦なのだった。 

「空襲警報!空襲警報!朝鮮空軍爆撃機は博多湾上空に到達!市民は防空壕へ退避してください!」

 空襲を告げるサイレンが金切り声を上げている。

 平和になって必要なくなったはずの防空壕へ、我先にと急ぐ市民の悲鳴と怒号が響く。

――同時刻、首相官邸

「くそ!軍隊、いや戦闘機さえあれば…まさか米軍を恐れず、我が国本土まで空襲するとはな」

 吉田茂首相は苦虫をかみつぶしたような顔をする。

「まだ独立も達成しとらんのです。致し方ありますまい」

「連中、本土を空襲しただけで済ませると思うか?」

「本土侵攻を企むと?」

「可能性はあるだろう。対馬や九州北部に上陸する可能性もある」

「まさか。さすがにソ連も本土侵攻までは許しますまい。侵攻するとしても対馬までかと。米国との戦争を覚悟していれば別ですが。ただ、米軍は仁川上陸作戦失敗の痛手から立ち直っておりませんから…あまりに兵士が死に過ぎました。米国の世論はさらなる派兵に否定的です」

「仮に対馬までだとしても、軍事力をもたない我が国では取り返しようがない。これ以上の領土失陥は防がねば…」

「全く同意します。ただ、大韓民国は博多で臨時政府を発足させたようです。解任されたマッカーサーの後任、リッジウェイも承認したとか。我が国の意向を、どこまで考慮してもらえますやら」

「面倒なことだ。最悪、米国が朝鮮半島に反応兵器を使う事になるかもしれん。冗談

じゃないぞ」

「そうなれば、最悪の場合は第三次世界大戦の可能性があります」

「…そんなことにはさせん。させてはならぬ。だが、これは我が国にとっても危機ではあるが、独立の機会ではある。忌々しいことだが、再軍備の覚悟を決めるほかあるまいよ」

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