第七話――横須賀港建造ドック

「なんともごつい風景だな」

 何隻も同時に起工されつつある航空母艦の偉容を見た艤装委員、谷垣中佐は思わず感嘆の声をあげた。

 横須賀のドックは大幅に拡張されつつあり、さながら一つの街のようになりつつある。事実、軍事機密を守るために工員専用宿舎や歓楽街まで作られている。


 アメリカ人民共和国の布哇奇襲で、手ひどく空母艦載機による空襲を受けた彼らは、航空母艦建造を急いでいるのだった。

 純粋な空母として設計、建造されつつある大鳳型航空母艦をはじめ空母は現在六隻が同時建造されている(開戦前から四隻は建造中であり、開戦直後から二隻が追加された)。


 すでに、彼女たちの船体部分はフネの形になりつつあった。

 ブロック工法が採用されているためか、工期はかなり短縮されていると聞いいている。


 その反面、いくつかの戦艦は建造中止か空母への転用が進んでいるという。

 戦艦の艦長を目指していた谷垣は思うところもないではなかったが、海軍の主流の艦の艦長ならば文句はないなとも思った。


――布哇の仇は、俺が、いや俺たちが必ず取る。『真珠湾を忘れるな』、だ。


 現首相である米内光政が国会での所信表明演説で使ったセリフを思い出しながら、谷垣は復讐を誓う。

 あの日の布哇には彼の同期が多くいて、そのうちの少なからぬ人数が靖国神社に祀られているのだった。



――後日。

 空母10隻からなる日本海軍機動部隊が、米領フィリピン沖に姿を表したのは布哇奇襲から二年後の事であった。

「決号作戦」、マニラ上陸作戦が開始されたのである。

 アメリカ人民共和国の猛攻に耐え忍んできた帝国海軍の、反撃の嚆矢であった。

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