第六話――オマハ市街攻防戦、45日間の死闘~T上等兵は語る~
――1947年、オマハ攻防戦に参加されていたそうですね。
「懐かしいですね、オマハ市街戦はそりゃあ酷い戦でした。まあ、市街戦につきもののあれこれが敵味方お構いなしに。ええ、正直あまり思い出したくはないですねぇ」
――あなたは陸軍第八師団第三歩兵連隊の一等兵として参戦、野戦昇進で上等兵へ昇進された。
「ええ、そうです。戦果といってもたいしたものではありません。機関銃分隊にいて、なんとか生き残った。ただそれだけのことですよ。ああ、一応勲章はもらえましたかね。ほら、まああの……生き残れば貰える。ああ武功徽章の丁種とかいうやつです。随分と乱発されましたからね」
――その後、英陸軍とカナダ軍が損害を出して撤退、退避の遅れたあなたの部隊は、オマハ市街地の陣地に取り残された、と。
「撤退戦というのは実に難しいものでしてな。なにしろ、下手に逃げようとすればいい射撃の的です。正直、あの赤い合衆国軍――正式名称はアメリカ人民共和国軍、なるほど。そんなだったかな――包囲された時、我々はいかに自決するかばかり考えておりました」
――それでも、最終的に自決まではされなかった。
「ええ、あのとき颯爽と突撃していった娘さんがおったのです。大の大人でもひれ伏すような砲煙弾雨の中をです。あの光景を見たとき、正直
『鬼神もこれを避く』と言葉では言いますが、あれはそんな類の風景でしたな。とにかく走る速度が速すぎて、狙いがつけられんかったのでしょう。
敵の塹壕に雪崩れ込んだあとは、まさに鬼神のような戦ぶりで。こちらまで震え上がるところがありましたな。
名前はたしかウラヌス。たしか西とかいう大佐の個人副官とかいう話でしたが。
馬のような耳をしとったのは不思議でしたが、とにかく美しい娘さんで…
ええ、そりゃ我々も奮起しましたよ。
あんな別嬪さん、しかも少女といっていい年の娘さんを死なせてなるものかとね。
なんとか赤軍の包囲を突破出来たのはあの娘さんのおかげですよ。あのあと、テレヴィジョンの取材で無事な姿を見たときは嬉しかったなあ。
今も存命?そりゃ良かった。
それだから、あの光文22年7月20日のオマハの風景だけは、いまだに忘れられんのです」
――軍事雑誌「
「オマハ市街攻防戦、45日間の死闘~T上等兵は語る~」より抜粋
#100文字の架空戦記
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