第五話――カレー上陸作戦参加将校の手記

「ええ、我々が上陸して港湾にたどりついたとき、カレーの港は瓦礫の山でした。往事は豪華客船も泊まる優美な港だったと聞きましたが。市街地にドイツ赤軍が立てこもっていたそうで、戦艦の上陸前砲撃の対象になったと聞いてます。


――砲撃を担当したのは、遣欧艦隊の高速戦艦「周防」級四隻と言われています。


「そうそう、あれはネーム・シップの『周防』だと、同期が話していたのを思い出しましたよ。ジェーン年鑑を暗唱出来る類いのやつでした。なんで陸戦隊にいるのかは聞けず終いでしたがね」


――港の中のドイツ軍がどうなっていたか、ご記憶は?


「ええ、昨日のように覚えています。ドイツ兵の生き残りはほとんど居ませんでしたね。戦艦の砲撃ってのはたいしたもんだと思いました」


――その後はカレー市街戦にも参加されたとのことですが。


「ええ……我々陸戦隊は市街地を制圧に向かったんですが。


さすがに市街地は戦艦の主砲で薙ぎ払う訳にもいかなかったんでしょう。ハーグ陸戦法規の絡みだったかな。

まあ、市街地の建物に立てこもっていたドイツ赤軍の抵抗が酷くて……次から次へ兵がやられました。


まあ、後世の歴史家が言う、『将校の墓場』とはよく言ったもんで。

新品少尉の私が中隊の指揮を代行する羽目になりましたな…」


――軍事雑誌「御楯みたて」光文50年7月号

「帝國海軍陸戦隊カレー上陸作戦始末記~K少尉の手記~」より抜粋


#100文字の架空戦記

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