第二話――パットン将軍の憂鬱

共産主義者アカどもめ」

 パットンは、国境線の向こうに兵力が集結しつつある様子を、双眼鏡で見ながら呻いた。


 視線の先にある部隊は、アメリカ社会主義人民共和国ASDP赤軍親衛隊レッドガーズだった。


 装備として運用しているのは、最新鋭のM3『トロツキー』戦車。

 V型12気筒のエンジン音を、国境線のこちら側にいても聞こえるほどに響かせている。ソビエト連邦からの技術供与を受けて作られた最新鋭戦車だ。


 あの戦車の主砲は85ミリ砲で、貫通力も高いと言う話だった。

 こちらはM3――同じ制式名称だが、中身は旧式のポンコツである――『リー』戦車ばかり。


 闘志溢れるパットン将軍ですら、暗澹あんたんたる思いにならざるを得ない光景だった。


「奴らはやる気だ。なのに、こちらは最初の一発は向こうに撃たせろときた。クソッタレバスタード。政治屋どもめ」


 民主主義国家の軍隊である彼らは議会の承認や、大統領の司令が無ければ動けない。

 そして、合衆国国内はまだ予備役動員令すら発されていない。

 未だ平時体制のまま、あからさまな挑発行為を続ける隣人と向き合わなければいけないのは悪夢そのものであった。


 このとき、同時に南方からの南部連合による奇襲攻撃を受けつつある合衆国は、存亡の淵にあった。後に北米三国動乱と呼ばれる内戦の始まりであった。


#100文字の架空戦記

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