コミュ障幼なじみをナンバーワンホストにしてみた

 近所の憧れのお兄ちゃんが奨学金を返すためにホストになったと聞いて、あたしは真っ先に彼の元に掛けつけると、彼のために一番お金を使う「エース」になった。だってあたしが彼をナンバーワンにして、彼が店からがっぽり給料もらって、そんでもってそれをあたしに還元してくれたら、永久機関完成じゃない?

 案の定、リアルの女の子が苦手なお兄ちゃんはあたしくらいしか指名がなくて、あたしはさっそく、冬ごもりの準備をするリスみたいに働いては金を貯め、夜な夜なホストクラブで散財した。お兄ちゃんは、コミュ力はないけど面接に受かる程度には顔がいいので、少しだけ増えた給料で身なりを整えると、次第に人気になっていった。

 あたしには、容姿も学力も誇れるものは何もなかった。だから、お兄ちゃんの成り上がりっぷりや、ホストクラブのあれそれを面白おかしく動画に仕立て、再生数でお金を稼いだ。再生数が増えればお金が入り、あたしはそれをお兄ちゃんに貢いで、お兄ちゃんはますます上り詰め、稼いだ金で生活が潤う。なるほど、循環とは良いものだ。あたしはつまらないバイトを辞め、おもしろいようにうまくいく毎日に高笑いをしながら、動画をアップし続ける。

 でも、うまくいったのは金ばかりだった。お兄ちゃんが三期連続ナンバーワンを勝ち取り、殿堂入りを果たしたその日、高級クラブのVIPルームに呼び出されたあたしは、彼と彼のとなりに座る清楚系美人に迎えられる。

 結婚することにした、という報告はもちろん、あたしの胸のど真ん中に風穴を開けた。だって普通、ここまで幼なじみが尽くしたら、好きだって気づくじゃん? でも、気づかないのがお兄ちゃんなのだ。

 見た目がチャラ男になっても根が朴訥人間のままのお兄ちゃんは、あっさりとホストクラブを辞めて結婚した。自棄になったあたしは、全国のホストクラブを荒らしまくった。初回三千円で渡り歩き、こいつは、と思ったホストに入れあげては、ことごとくトップにした。なぜかホストは絶対にあたしに惚れず、どちらかというとお母さんとパトロンの間みたいな関係になっては、「俺の女神」といいながら、貢いだ分くらいのキャッシュバックをくれる。

 いつしかあたしは有名になり、「ホストの女神」と呼ばれては、ありがたられるようになってしまった。売れないホストをトップに押し上げるのみならず、その気持ちいい金遣いで、店も客もみんなを幸せにするんだそうだ。なんだそれ。あたしの幸せはどうした。

 北海道から沖縄まですべてのホストクラブを制覇して、あたしは家に帰ってきた。

 ずっとホテルかホストの家に泊まっていたから、約一年ぶりの帰還だった。戻ってきて驚いた。郵便受けが、紙でパンパンになっている。ざらざら手紙が流れ落ちるなんて、マンガの中のイケメンだけの経験かと思っていた。てっきりDMを止め忘れたかと思ったら、そのすべてがホストやクラブやその関係者からの手紙だった。

 驚くことに、ホストクラブ巡りを辞めても、配信者を辞めても、手紙は毎日どこからか届いた。暇を持て余したあたしは、その一つ一つに返事を書いた。ベッドから立てなくなった今でも、どこから聞きつけたのかホストクラブの女神は人気で、あたしは今日も筆を執る。

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