運コントロール
通勤途中に雨に降られて、線路にイヤホン落として、階段で足ひねったので今日のわたしはごきげんだ。これで、明日のチケット戦争は勝ったも同然にちがいない。
運をコントロールできるようになったので、わたしたちは常に自分の運をどこに配分するか気を配りながら生活する。誰かに告白するとき、受験会場で鉛筆をにぎるとき、宝くじの結果を見つめるとき、ため込んできた運を解放して、わたしたちは未来を勝ち取る。発券されたチケットの指定席は、なんとアリーナ最前列で、わたしはコンビニで雄叫びを上げる。
先輩はあんまり興味なさそうだったけど、それでも誘えばちゃんと来てくれた。ライブは最高で、わたしは熱気に浮かされながら手を振り続ける。よりにもよって、わたしの一番すきな曲のときに一瞬、刺されたような腹痛を感じたけど、先輩が肩を叩いてくれた瞬間に治った。「体調管理くらいちゃんとしろ」とライブ後に怒られたけど、そんなこと言いながらも自分の運を使ってわたしを助けてくれる甘い先輩が好きだ。
先輩はわたしに甘くて、それでもきちんとした人だから、自分が危なくなるほど無茶な運の使い方はしない。だからわたしは油断していた。三日後、先輩は事故に巻き込まれた。わたしが病室についたときにはもう、手遅れだった。すっかり運を使い切ってしまっていたわたしは、にぎり返されることのない手を必死で温めることしかできない。うっすら意識を取り戻した先輩は、わたしの顔をみて笑う。「腹は痛くないか?」その一言で、わたしは決めた。先輩は危機を脱し、回復の兆しを見せ始める。じくじく痛み始めたお腹を無視して、わたしは先輩の手をにぎりつづける。
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