第4話 帰路
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どれだけ祈っても太陽は沈む。
どれだけ願っても人は死ぬ。
もちろんどれだけ望んでも、祭りは、花火大会は終わる。
どこからともなく、本日はお越しいただきと言った終了のアナウンスが流れ、集まった人ごみは夢の世界から退場し、それぞれが元のごみのような日常へと帰っていく。
一夜限りのパーティーは、一夜限りしかないから、一夜限りのパーティーなのだ。
全然うまいこと言えなかったよ!
「……」
でも、花火が終わるということは、デートが終わるという意味だ。
ぼくは今朝の誓いを思い出す。今日、告白するんだという誓いを。
ちらりと夏綺さんの顔を見る。その綺麗に通った鼻筋も、形のいい耳も、柔らかそうな頬っぺたも、少しだけつり目気味の大きな瞳も、全部が愛おしく見えた。
……おかしいな。
ぼくは夏綺さんの顔に惚れたわけじゃないんだけどな。
もちろん見た目がゼロなわけはないけれど、話していて楽しいところや、会話のテンポが合うところが好きだったはずで。
それなのに、告白を決心した瞬間、目も合わせられないくらい心臓が脈打っている。
お腹のあたりが、空洞になったかのようにぐるぐるしている。
三秒前に自分が言ったことを思い出せない。
ああ、これが、人を好きになるっていうこと。
そして、告白して振られてしまえば、この気持ちはなくなってしまう。
「……」
怖い。
振られるのが怖い。なにより、一歩踏み出してしまえば、もう二度と今日のように会話ができなくなってしまうことが怖い。
たとえお付き合いできたとしても、ぼくたちの関係は変わってしまう。
いや。
それでも、ぼくは夏綺さんが好きだ。
「……くん。ハルシくん」
「あっ、ごめん、ぼうっとしてた」
「どうしたの、暑さにやられた? ハルシくんって帰りなに線だっけ」
あたりを見ると、いつの間にか駅まで来ていた。
このままでは解散してしまう。
気持ちを伝えなきゃいけないのに、今日が終わってしまう。
「……帰りはバスだけど、夏綺さんは相鉄だっけ」
「うん、そうだよ」
「そっか……」
「……」
「…………」
「……なに、どうしたの」
俯いて何も言わなくなったぼくを見かねたのか、夏綺さんは曖昧に微笑みながら、ぼくの顔を覗き込んだ。
きっと彼女は気が付いているんだろう。
ぼくが、何を言いたいのか。ぼくが、どうなりたいのか。
それでも突き放さずに、話を促してくれた。
だからぼくは―。
「今日さ、まだ、帰りたくない」
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