第7話

「ふふふーん~~」


少し機嫌良さげな千紗。今にまでもスキップしそうだ。一方の俺はやばいものが置いていないかと言うことに、思考の半分を使っていた。


「あのなー、気軽に男の家に着いてきたらダメだろ……」


結局、家まで連れてきてしまった。途中で何回も帰るように諭そうとしたが、のらりくらりとかわされてしまった。


唯一の救いはお父さんはまだ仕事に行っていて、帰ってくる時間ではないということだ。あの人はブラックで有名な中学校の先生をしている。


自分の息子よりも他人の息子を見ているのだ。俺が受験勉強の時、他のやつの受験のことを心配していたのだ。


お母さんがいなくなってからこんな感じではある。いなくなったというのは、この世にはもう居ないという意味で。


大丈夫、もう慣れている。


だって、もう高校生だし大人だ。子供じゃないんだから親に執着することは無いし、中学校の頃は槻ちゃん一筋だったので寂しいと感じたこともなかった。


なかなかに大きめの一軒家を建てた俺の両親は、多分俺のことを思って建てたのだろう。


しかしあの人たちは、ここでほとんど過ごしていない。過ごせなかったのだ。一人で住むには広すぎるくらいだ。


この家の利点は、隣に槻ちゃんが住んでいる。だからいつも遊べたし、幼なじみになれた。


「ここがあなたの家なの?わたしの家と近い」

「そうなのか。お前の家はどこなんだ?」


俺がそう聞くと少しバツの悪そうな顔をした。でもすぐにいつもの表情に戻って視線を上に向けた。


「わたしのいえはあそこ」


そう言って指さした所は高級マンションの一角だった。それも最上階だった。


いつも帰り道に眺める程度で、庶民の俺からすると東京タワーを眺めるような感覚でいた。


あそこに住んでいる人がいるのかという感じでしかない。


「お前、お金持ちなのか?いい所に住んでんだな」

「わたしが、お金持ちなんじゃない。まぁ皆からしたらいい所なのかも……ね。でもあんなところ嫌い」


そう言って少しだけ、ほんの少しだけ辛そうな顔をした。


千紗は表情にあまり出ないが、よく目をこらすとコロコロと表情が変わっている気がする。


いや、長いこと一緒にいたからか、一般人よりは見分けられるようになった。


「だから今日は暗くなるまでここにいる。あそこに帰ってもどうせ一人だし」


下を向いて言うのだった。そして小さい子供がワガママを言う時のように、少し声がうわずって、


「ねぇ、いいでしょ?」


そんなことを言った。何かに縋るようなそんな目だった。


「いいよ。なんにもないけど入れよ。ゲームでもするか?」


あぁ、しまった。……そう思った。


「わたし、ゲームなんてしたことない。楽しいの?クラスメイトがよく話してるからやってみたいと思ってた」


そう言って、少しテンションをあげた。


千紗はふざけてそう言っているのでは無い。至って真剣ですと顔で表現している。


いい所住んでるんだし、ゲームが買えない訳でもないし多分、親がやらせたくないとか悪影響とか言っているんだろうな。


「スマホとかは持っているのか?」

「持ってるけど。でも家においてる。使うことないし」

「え!?今の時代にスマホ無しで生きていける人っているの?」


多分、彼女は娯楽に興味が無いのだろう。やろうと思わなかったか、する機会がなかったとかなんだろう。


親に禁止されているという線はなくなったな。


「よぉーし、俺がゲームの楽しさを伝授してやろう。覚悟するがいい……」


こうなったら徹底的に楽しむしかない。そう思ったのに、ちさちゃんはチクチク言葉を発するのだった。


「きょーすけ、キモい」


女子から言われるキモいって言う言葉は全世界で禁止した方がいい。これ程、傷つくなんてゲーム用語であえていうとしたらオーバーキルだ。


◆◆

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