第6話

先生が明日の予定などを話し終わって、号令の言葉をかける。さすがにまずいと思って声をかける。が、起きない……。


席が1番後ろということもあって、気付かれずにさようならしてしまった。


「おい、起きろよ。ホームルーム終わったぞ」


横で爆睡している無気力を起こす。が、起きる気配はない。今日は掃除もなかったので皆、足早に帰ってしまった。槻ちゃんも例外では無い。


一度、槻ちゃんを呼びかけようとしたのだが自分の信念を曲げることになるのでやめておいた。


この時、俺にはふたつの選択肢が浮かんだ。


1.この無気力をおいてそのまま帰る


2.無気力が起きるまで待っておいてやる


このふたつなんだが、死ぬほど悩んだ末に千紗も女の子なんだから無防備な姿のまま置いていくのはどうかという決断を下し、2を選んだ。


そして30分くらい待っていると千紗は起きた。


その間、俺は本を読んで過ごした。ちなみに本と言っても参考書ではあるが……。


「おはよー。ってあれ、誰もいない?」


寝ぼけ眼で俺の方を見てくる。俺も誰もいなくなっていたなんて気づかなかった。本に熱中していたからな。


本に栞を挟んで立ち上がろうとしたら、俺の太ももに白い手が置かれる。一瞬、変な声が漏れかけたが、何とか我慢した。


「わたしと、きょーすけのふたりきりだねぇー」


そんなことを言って、こっちを見てくる。


別に変な気持ちを込めて言っているとか、そういう感じじゃなくて素で言っている辺りがずるい。


「そうだなー。みんなも帰ったんだ。俺達も帰るぞ」


俺が席を立とうとすると、手に体重をかけて俺を立たせないように邪魔してくる。強く握られたことによって、手の感触が……。


「そんな急かさないの。わたし、起きたばっかでうごけなーい」


そう言って力なく足をぷらんぷらんさせる。俺が逃げないことがわかったのか、太ももから手を離す。


そしてわざとらしくチラチラとこっちを見ながら、


「あー力持ちの人におんぶで家まで送って欲しいなー。寝ぼけたままだと変な人に連れてかれちゃうなー」


いやーん、と抑揚をつけず淡々と声に出してみる千紗。無気力もここまで来たらすごいと尊敬するしかない。


「おんぶは無理だ」

「え!?わたし、……重くないよ。天の羽衣くらいしかないよ?」


と、いつもは反応が薄いのに少し焦っているように見える。これは嘘をついているパータン。


しかし俺は紳士。乙女の体重に触れるなど禁忌。やめておこう。槻ちゃんから学んだことである。


「まぁ、俺はおんぶって言うのはな?体勢的にな、ちょっと色々と男子高校生にとって厳しいものであるからして……」

「あー、わたしのが君を誘惑したんだね。すまない」


そう言って、胸を隠す素振りをする。


俺は大きくわざとらしく溜め息をつく。何を隠す必要があるんだ、と言わんばかりに。


「その溜め息はなに?。理由次第ではわたしはぐーぱんち、しないといけない。……あと、B位はある、嘘じゃないよ、うん」


そういって話す。いつもより口数が多い気がするがこれは短なる気のせいだろう。


しかし本格的に周りが静かになってきた。クラブでもしていればまだ騒がしかったかもしれないが、今日は残念ながらクラブがない日なので静かだったのだ。


「それだけ話せていたら意識はハッキリとしているだろう?帰るぞ」


「わたし、お持ち帰りされるの巻」


「変な言い方やめろ……。置いて帰るぞ」


「ごめんなさい」


そう言いながら立ち上がる。謝罪の言葉を言いながら、荷物を詰めているので全く謝る気持ちはないだろう。


「きょーすけはどうせ、これから何もすることないだろうからわたし、きょーすけの家行く」


「なんで俺が何もすることがないと決めつけた?俺だって用事のひとつやふたつくらいあるわ!」


そう言い訳したが何も用事はない。槻ちゃんとあれこれと考えていたから、スケジュールは真っ白である。


「きょーすけ、ふられた」


とっても痛いところを疲れた。俺の前までの日常生活は槻ちゃん第一で考えられていたのだから。

断る理由もなくなってしまった俺は、渋々と了承した。


千紗はバンザーイと両手をあげたがその顔は嬉しそうではなく真顔だった。

そんな顔も可愛いのは美人の特権だと思う。


♣♣

千紗は無表情でも喜んでるのよ?













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