第5話
「美味しかった。ご馳走様」
そう言って綺麗に無くなったお弁当を返してくる。ご飯を食べる時は行動力が増すんだなと思ったことは隠しておこう。
「お粗末さまでした」
そう冷静に返したのだが、俺は心の中で会議が行われていたのだった。それは今日彼女に渡した俺の水筒についてだ。
あの時なんにも考えずに水筒を渡したがあれは間接キスだったのではなんて考えているのである。
ひとつの考えは意識するべきだという意見と、もうひとつはこんなこと意識するなんて童貞丸出しじゃないか!という考えである。
そんなことを真剣に考えている俺をおいて、彼女は俺がすっかり忘れていた質問をしてきた。
「それでー約束ってなにー?」
「あぁ、そうだったな。俺さお前が笑った顔って見たことないんだよなー。だから試しに笑ってみてくれないか?」
「わたし、笑顔ヘタ。けど約束。だからやる」
そういうとこっちにだけ見えるようにニコッと小さく笑って見せた。
そしていつもの顔に戻り、顔を両手で隠して「恥ずかしー」とわざとらしくいっている。
「あぁ、下手くそだな。けどその笑顔は俺にだけしか見せちゃダメだからなー」
「なんで?」
「そりゃ、まぁなんでもいいだろ」
言えるわけないだろ。あんなにも笑った顔が可愛かったなんて。いつも無表情でいる分、笑った時の衝撃はやばい。
少しだけだか不覚にも可愛いと思ってしまった。
何故だが分からないが、この笑顔は俺が守らなくてはと思ってしまった。
「弁当食べたから疲れたー。寝る」
そう言って彼女はまた机と、にらめっこし始めてた。やっぱりこんなやつを可愛いと思ったのは間違えかもしれない。
「あ、そういや夢にきょーすけ出てきた。私の事犯そうとしてた。おやすみ」
「ん?犯そうって何を?おい!起きろ!」
そう言っても彼女は夢の中だった。俺の中でこいつを可愛いと思ったということはなかった。自分にそう言い聞かせた。
◆◆
千紗が寝てしまって、喋る相手がいなくなったのもあってトイレに行こうと席を立った。切羽詰まっていたのもあって少し早歩きで廊下に出る。
俺の目の前には金髪の子が歩いていた。俺が大きな音を立てて、歩いていたのもあって後ろを振り向く。
「な、何ついてきてんの?わ、私達は終わったんだって!分かってるの?」
振りかえると、すぐに槻ちゃんは俺に向かって言ってきた。
「あー、今、俺普通にトイレ行こうとしてただけなんだけど……」
「え、あ、勘違い?紛らわしい!」
そう言って顔を赤くしながら、槻ちゃんは早歩きでどこかへ行ってしまった。歩いているだけで槻ちゃんに嫌われるなんて不幸だぁ……。
♣♣
え、槻ちゃん意識してますやん。
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