第3話

「わたしね、楽しいって感じたことあんまりないの」


だらだらと机と話すように突っ伏したままそういう。俺的には衝撃事実だ。あんまりがどの範疇なのかは定かではないが……。


こいつが話しているのはいつも俺だけだし、少なくとも俺は一緒にいて楽しいのかと思っていた。


「え?俺と話してた時楽しくなかったの!?」


俺は思っていた通りの疑問を口に出していた。その答えは少し不機嫌そうな顔の千紗ちゃんから聞けた。


少し頬をふくらませながら彼女は呟く。


「だってきょーすけ女の子に夢中だった」

「そりゃそうだが……」


え?それが楽しくないのとなに関係あるの?


そんなふうに思ったがわざわざ突っ込むのもあれなのでスルーしておいた。はずだったのに、彼女は積極的にきたのだった。


「だから今度からはわたしのきょーすけなの」

「……ん?」


あまりの言葉に俺は耳を伺った。難聴系主人公って存在しないと思っていたが、こういうことが起きていたのかもしれない。


「だから今日からはわたしのきょーすけ」


そう言って机の上にある俺の小指をキュッと握って、俺の方を見つめた。


「聞こえてはいるんだ……。ちょっと情報の整理に戸惑っているだけで。あと声を小さめにいこうか?周りの目線が辛い」


周りのヤツらが後ろを振り返って、あんぐりと口を開けている。所々でこんなことが言われている。


「ついにあの男がまともに女子と話しているぞ?」

「あのキチガイくんが?」


などと、囁かれている。今思うと俺がどんな風に過ごしていたかわからん。恋というのは怖い。

周りが一切みえなくなるんだなぁと俺は思いました。


「俺ってそんなにやばかったの?節度ある恋愛を送っていたつもりだったんだけど」


「んー、私がもしあの女の子の立場だったら機敏に動いて逃げ回ってるかな……」


「それはたいそう大変なことをしていたんだな。お前が機敏に動いている姿なんて想像出来ないしな」


そう俺が言うと千紗は顔を驚かせた。


そして小指から手を離すと、机に頭をくっつけたまま手足をパタパタさせ始めた。その奇妙な光景に目を取られる。


なんか可愛い……。


「一応突っ込んでおくな?何しているんだ?」

「わたし、機敏に動いてる、ほら頑張ってる」

「なんと絶望的!」


俺がそんなことを言った瞬間に疲れたぁと言って、動くのを辞めてしまった。


こいつのことあんまり見ていなかったが、どうやって生きているんだろう?そんな疑問がわいた今日の朝だった。


◆◆

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