第12話

「うぅ~~~痛いです・・・・。」


「自業自得だ・・・。」


「うぅ~~~~。」


リアは、歩きながら痛そうに俺に殴られた頭頂部を撫でている・・・。すると、隣を歩いていたリアはいきなり俺の前に立ち、こちらと視線を合わせてくる。


「どうした。」


何かと思い聞いてみると、真剣な面持ちで話し始めた。


「・・・・・あの勇者さまこんな時になんですが、二つほど聞いてほしいことがあります。」


俺の中に緊張が走る。


「・・・なんだ。」


「えっと、まずは一つ目です。これを勇者さまに・・・」


そう言ったリアは、懐から一本のナイフを取り出し、手渡してきた。


「これは?」


「はい、これは先程の鉱石、燐光石りんこうせきを錬成してあるナイフです。刀一本だけというのも心もとないので、脇差としてお使い下さい。」


「燐光石を錬成してあるナイフってことは・・・」


「はい、一定の速度で振ることによって燃えるナイフとなっております。最初に出くわしたオオカミの魔獣は私の刀でも断ち切れないほど硬く、ここ最近にも出てくる魔獣共もかなりの強度を持っています。なので、より切れるよう錬成しました。」


「なるほど、そういうことなら貰っておく。・・・それにしてもこのナイフ、変な形をしてるな。」


そう、このナイフは両刃であることに加えその下に、かえしがついている。

かえしは、弓矢や槍などによく見られる刺されると抜くことができない部分だ。これを無理やり引き抜こうとするとかえって重症化させる恐れがある。なので一般的に抜く方法としては貫通させるしかない。


「このナイフは、勇者さま専用で作ったもので、勇者さまのスキルを最大限生かせるよう、両刃にかえしがついております。」


「・・・・・いいナイフだな。」


「っ!!!ありがとうございますっ!!!」


「なんで、お前が感謝するんだよ。」


なぜリアが感謝するのか意味がわからない。感謝をする方は俺であってリアではない。それに――――――


「・・・・・・・あと、さっきは殴ってすまなかったな。」


「え、えっ!?」


「これを作ってたからだろ。忘れてたのは・・・。」


「・・・・・・。」


リアは、少し戸惑いを見せたが無言で頷いた。


「・・・・・どうやら、お前は一つの物事に集中すると周りが見えなくなるタイプみたいだな。」


「・・・すみません」


今度は落ち込んだ様子で謝ってきた。


「謝るな、別に悪いことじゃない。これは、お前の悪いところじゃなくていいところだぞ。」


「いいところ、ですかっ?」


「あぁ」


「そう、ですか・・・」


リアは胸に両手を当てうつむいた。しかし、次の瞬間・・・・リアは俺にグイッと顔を近づけてはにかんだような笑顔をみせた。


「私、もっと勇者さまのお役に立てるように頑張りますねっ!」


「・・・っ!!!」


その瞬間、俺の心臓はドクンッと大きく跳ねた。しかし、前のような気分が悪くなるような感じではない。むしろ心が温かくなるような感じだ。だからなのか、俺は咄嗟に顔を背け、視線を外してしまった。


「どうしたんですか?」


「いや、なんでもない。・・・・で、もう一つの聞いてほしいことってなんだ。」


すぐに、俺はまた平然を装い、リアに問う・・・。


「あっ!はい、えっと、この近くに水があると思われます。」


「本当かっ!?」


俺は、興奮気味にその話に食いついた。


「はい、水はあるにはあるのですが普通の水ではないようです。」


「・・・どういうことだ?」


言っている意味があまり分からなかったので、静かにリアの説明を聞く。


「まず、水があると思った理由は単純です。ここら辺は洞窟のようになっています。ですから、よくよく耳を澄ましてみると・・・・・・・」


確かに、最初落ちたところは上を向けば草木や太陽の光が若干見えていたが、最近では、歩いていく中で草木などどこにもなく、周りは岩で覆われ、本当に洞窟のようになっている。だからと言って今までそんな音は聞いたことは―――――――ポツンッ


「今のはっ!」


「はい、多分ですが雫が落ちた音だと思います。そして、普通の水ではないと思った理由ですが、ここら辺の岩壁はすべて緑珀石りょくはくせきという鉱石でできています。この鉱石は、太陽や普通の光などを当てると緑色に輝くのですが、一つだけ緑色に光らず、琥珀こはく色に輝く光があります。それこそが蛍光水けいこうすいという光る水です。」


確かに、今までなぜ太陽が全然届かないこの場所が明るいのか疑問だったが、まさか水とこの岩壁のおかげで明るくなっているとは思いもしなかった。


「だから洞窟の中でも明るいのか・・・。ということは明るくなればなるほど水が近くにあるということか?」


「はい、おそらく」


「なるほど。・・・・しかし、水があるからと言っても飲めなければ話にはならない。その水は飲めるのか?」


そう、水を発見したところで体に毒なものを飲んで、最悪な場合、死んでしまっては元も子もない。リアは、考え込んでしまったが、俺は、急かさず静かにリアの答えを待った。そして―――――


「・・・・・飲めないと思います、・・・・」


十分すぎる答えだと思った。なんせそのまま飲む場合の話だから・・・。


「・・・・・飲む方法が、あるんだな」


「流石です、勇者さま。しかし、ここからは憶測でしかありません。蛍光水は水の成分に加え、分子レベルの光る成分があるから水が光っていると言われています。なので、その分子レベルの成分さえ取り除ければ飲める水になるのかと・・・・・。」


「なるほど、そこでお前の錬金術師としての力が活躍すると・・・。」


「はい。しかし、私自身、錬成において結合ばかりすることの方が多く分離はあまりやったことがありません。それに加え、分子レベルの分離はとても難しいと思われます・・・。」


リアは、淡々と説明していく。しかし、リアは諦めた素振りなどみせず、むしろやる気満々といった顔になっていた。


「決まりだな。」


「はいっ!」


俺とリアは不必要な会話はせず、意思疎通ができたことを感じながらその場からまた歩き始めた。


光り輝く水の音がする方へと―――――――





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