第13話

俺たちは、緑珀石りょくはくせきが強く光輝く方に歩き続けた。もう何日たったのか、何キロ歩いたのか、正確には分からない。洞窟は、一本道というわけにはいかず途中途中に、分かれ道が存在する。その都度、光が強くなっている道を選んでは歩く。しかし、目が慣れてくるせいなのか、光の変化は微妙なため、光が強くなっている道が分からなくなる時がある。その都度、歩きながら後ろを確認し、強くなっていないと感じたら戻る。この作業の繰り返しだった。そのため、俺たちの体は水を欲し、疲弊し続けていた。


「・・・大丈夫ですか?勇者さま」


「あぁ、問題ない。それよりも早いところ水を確保しなければ・・・」


「・・・そうですね。」


水がなくなってもしかしたら3日以上過ぎている可能性だってある。だからこそ、休んでいる暇はどこにもなかった。それでも、リアは定期的に俺の体調を心配してくる。

光の変化が微妙すぎて、道が本当に合っているのか不安になることもある。その都度、耳を澄まし、水が落ちる雫の音を聞き、不安を取り除いた。


しかし、耳を澄ませば聞こえてくるものは水の音以外にもある。魔獣の足音、唸り声に悲鳴など、今もまさに聞こえてくる・・・。


その中に一つ、俺を気を引き締める唸り声がある。


「・・・・・・近いな。」


「・・・そうですね。しかも、今までの魔獣よりもかなり手ごわそうです。」


「・・・あぁ」


まだ見えぬ敵に対して俺たちは刀を抜き、臨戦態勢に入る。唸り声とともにこちらによって来る足音が聞こえてくる。


そして、俺の勘が正しければ、この魔獣は―――――――――


グルゥゥゥゥゥラァァァァァァ!!!!!


角から飛び出してきた黒い影は一直線に俺に噛み付こうと襲ってきた。それを刀で防いだが、黒い影の力は強く、両手で刀を抑えたが、力負けし、押し倒されてしまった・・・。ギシギシと牙と刀が擦れ合う音があたりに響く。


「・・・勇者さまっ!」


「思った通り、オオカミ型のっ!!!!」


しかし、俺はその黒い影を見た瞬間ある異変に気づき、思考がかたまってしまった。

コイツは本当に魔獣なのか。そう疑わなければならない容姿をしていたのだ。確かに、魔獣と呼べる部分はある。しかし、大部分は魔獣ではなく、俺たちと同じ人間の身体と顔を持っているのだ。群青色の長髪な髪にはオオカミの耳がついている。あどけなさを残した顔立ちに、手は腕まで、足はふくらはぎまで、毛皮をまとった獣の腕と足を持つ。毛皮以外は、完全に一糸まとわぬ姿だ。


「・・・・くっ!?」


「・・・勇者さま!!!」


驚きを隠せず、力で押され気味になっていた俺にリアは喝を入れるように怒鳴った。


「っ!勇者さまっ!今、ソイツを剝がしますっ!」


そう言ったリアは刀の先を魔獣?に向け、突き刺すように構えた。


壱小太刀ひとつこだち――――」


「待てっ!俺がやるっ!!」


俺からはがそうとしたリアを制止させ、俺は自分一人でどうにかする方をとった。ずっと守られているわけにはいかないからだ。

両手で刀を抑えていたが、獣の腕である左手だけ外した。右手だけで抑える。しかし、一本の腕で抑えるのは、正直厳しい。が、そこは気合と根性と時間の問題だった。俺はすぐに左腕に力を込め、魔獣?の左頬に照準を合わせ、フルスイングした。


「どけっーーーーーー!!!!!」


俺のこぶしは、完全に魔獣?の左頬を捉えていた・・・。


しかし、俺の攻撃は空を殴るだけに終わってしまった。魔獣?は凄まじいスピードで後ろに飛びのき、間一髪で俺の攻撃を交わしたのだった。


「チッ!!!」


俺もすぐに立ち上がり、臨戦態勢を整える。


「・・・・・なんなんだ?アイツ・・・知ってるか?」


「・・・いえ、私もこんな種族は知りません。魔獣なのか人間なのかそれすらもはっきりとは・・・亜人という可能性もあるでしょうが、このような亜人は見たことも聞いたこともありません・・・。」


「そうか。」


魔獣?から目を離さずに会話を続ける・・・。リアですら知らない種族ということか・・・。


「アッ、、、アッ、、、アッ、、、殺す、、、、、僕、、、お前、、、殺すっ!!!!!!絶対っ!!!!!!」


魔獣?はこちらを睨みつけながら唸り声をあげていると思いきや、途中からたどたどしいが言葉を発してきた。


「・・・なっ!?勇者さま、今、喋りましたよっ!コイツ!」


人間と同じ声帯を持ってはいたが、唸り声しかあげていなかった魔獣?がいきなり言葉を話すため、リアは心底驚き、こちらに話しかけてきた。

しかし、俺は驚かなかった。いや、驚かなかったのではない。驚いたには驚いたが、俺は、別のことに驚いていた。


この言葉、この憎しみと哀愁を含んだ声色、聞いたことがあった。


そう、この怪物の左腕を結合したときに頭が割れそうな痛みとともに脳内に流れ込んできた声と瓜二つのものだった。

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